シリアへの軍事介入に備えるオバマ米大統領、ブッシュ政権の教訓
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【8月29日 AFP】米国のジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)前大統領(67)が国連安全保障理事会(UN Security Council)を無視してイラクへ侵攻してから10年、バラク・オバマ(Barack Obama)大統領は「今回は違う」と主張しながら、安保理の承認なしでもシリアへ軍事介入する構えだ。
安保理では英国が、シリアのバッシャール・アサド(Bashar al-Assad)政権に対する武力行使の容認を求める決議案を提出したが、常任理事国の中露の反対は必至だ。このため、米ブッシュ政権がイラクの独裁者だった故サダム・フセイン(Saddam Hussein)政権を崩壊させたときと同様の「有志連合」という考えが、浮上し始めている。
オバマ大統領は就任時、ブッシュ政権よりも国際的正統性を追求することを誓約した。しかし、中露以外の常任理事国である英米仏間で、アサド政権が化学兵器を使用したという確信が強まるにつれ、軍事介入に踏み切る方向に傾きつつある。
28日、米公共放送PBSに出演したオバマ氏は、先週ダマスカス(Damascus)郊外で多数の市民が死亡した化学兵器によるとみられる攻撃について、アサド政権によるものだとの結論に米政府は達したと述べた。
また、ブッシュ政権がイラク戦争を始めた経緯は「誤り」だったと批判するジョン・ケリー(John Kerry)国務長官は、化学兵器使用の疑いについて、国際的に禁止されている兵器の使用は「倫理に反する卑劣な行為」であり、誰かが責任を追及されねばならないと非難している。
■ブッシュ前政権との違い
米ニューヨーク大学(New York University)国際協力センター(Center on International Cooperation)のリチャード・ゴーワン(Richard Gowan)氏は、ブッシュ政権下のイラク開戦と「今回はまったく違う」と語る。「2003年のイラク侵攻では、ブッシュ政権が初めから意図をあからさまにしていたのと対照的に、オバマ大統領はひそかにこの時を狙っていた、と信じる者がいるなら、それは何かにつけて謀略説を唱えたがる人ぐらいのものだろう」
しかも2003年の際には英国がブッシュ政権を支持したものの、独仏がイラク戦争に反対した。しかし今回は、欧州の大国たちが一致している。フランスのフランソワ・オランド(Francois Hollande)大統領は、非戦闘員保護のために国際的権利を行使すべきだと呼び掛けてきた。
しかしこれまでに10万人以上が死亡しているシリアの戦闘を終わらせるために安保理15か国の合意を取り付けるよりも、シリアへ向けて巡航ミサイルを1発、発射する方が簡単だろう。
ゴーワン氏は「ロシアと中国がいかなる軍事行動も非難することは間違いないが、米国はシリアに対する攻撃には強い倫理的論拠があると自信を持っている。オバマ大統領がこれまで抑制的であってきたことも今回、(軍事介入の正当性を)国際的に主張する助けとなる」と解説する。
■落としどころを模索するオバマ政権
米シンクタンク「外交問題評議会(Council on Foreign Relations)」のリチャード・ハース(Richard Haass)会長は、いかなる軍事行動であっても、アサド政権が化学兵器という禁じられた大量破壊兵器を使えば「一線を越える」ことになるとしてきたオバマ大統領の言葉を裏打ちするものでなけれならない、と語っている。「オバマ政権は落としどころを模索しているように思える。大量破壊兵器に対する規範の強化につながるくらい大きく、また『一線を越えるな』という警告に信ぴょう性を持たせるほど大きく、しかし同時に、米国がこの内戦の事実上の主役となってしまうほどには大きくも、無制約でもない落としどころだ」
安保理は、1999年のコソボ紛争中に北大西洋条約機構 (NATO)がセルビアを空爆した際にも無視された。ハース氏は今回も米国と同盟諸国は、NATOやアサド政権に反対するアラブ諸国などによってある程度の「多国籍性」を示せると主張する。いわば「ある種の『有志連合』を作ることができ、そうすれば数十か国が参加するだろう」と予測している。
■すでに懸念の声も
しかし、すでに懸念を持っている国もある。スウェーデンのカール・ビルト(Carl Bildt)外相は、そうした試みは安保理の決議を通じた行動でなければならず、現在、化学兵器の使用に関して調査するために現地入りしている国連調査団の報告を待つことが重要だとくぎを刺した。米国と親しい同盟国のある国連大使も「軍事行動を開始する前に化学兵器が使われたことを示す何らかの確証を見たい」と述べた。
ゴーワン氏は「もしもオバマ大統領(の目標)が、化学兵器の使用に対する限定的で処罰的な措置から、(シリアの)体制変革へと移行した場合、オバマ氏は米国の軍事行動に対する国際社会の支持が急速に薄れるのを目の当たりにすることになるだろう」と語った。(c)AFP
安保理では英国が、シリアのバッシャール・アサド(Bashar al-Assad)政権に対する武力行使の容認を求める決議案を提出したが、常任理事国の中露の反対は必至だ。このため、米ブッシュ政権がイラクの独裁者だった故サダム・フセイン(Saddam Hussein)政権を崩壊させたときと同様の「有志連合」という考えが、浮上し始めている。
オバマ大統領は就任時、ブッシュ政権よりも国際的正統性を追求することを誓約した。しかし、中露以外の常任理事国である英米仏間で、アサド政権が化学兵器を使用したという確信が強まるにつれ、軍事介入に踏み切る方向に傾きつつある。
28日、米公共放送PBSに出演したオバマ氏は、先週ダマスカス(Damascus)郊外で多数の市民が死亡した化学兵器によるとみられる攻撃について、アサド政権によるものだとの結論に米政府は達したと述べた。
また、ブッシュ政権がイラク戦争を始めた経緯は「誤り」だったと批判するジョン・ケリー(John Kerry)国務長官は、化学兵器使用の疑いについて、国際的に禁止されている兵器の使用は「倫理に反する卑劣な行為」であり、誰かが責任を追及されねばならないと非難している。
■ブッシュ前政権との違い
米ニューヨーク大学(New York University)国際協力センター(Center on International Cooperation)のリチャード・ゴーワン(Richard Gowan)氏は、ブッシュ政権下のイラク開戦と「今回はまったく違う」と語る。「2003年のイラク侵攻では、ブッシュ政権が初めから意図をあからさまにしていたのと対照的に、オバマ大統領はひそかにこの時を狙っていた、と信じる者がいるなら、それは何かにつけて謀略説を唱えたがる人ぐらいのものだろう」
しかも2003年の際には英国がブッシュ政権を支持したものの、独仏がイラク戦争に反対した。しかし今回は、欧州の大国たちが一致している。フランスのフランソワ・オランド(Francois Hollande)大統領は、非戦闘員保護のために国際的権利を行使すべきだと呼び掛けてきた。
しかしこれまでに10万人以上が死亡しているシリアの戦闘を終わらせるために安保理15か国の合意を取り付けるよりも、シリアへ向けて巡航ミサイルを1発、発射する方が簡単だろう。
ゴーワン氏は「ロシアと中国がいかなる軍事行動も非難することは間違いないが、米国はシリアに対する攻撃には強い倫理的論拠があると自信を持っている。オバマ大統領がこれまで抑制的であってきたことも今回、(軍事介入の正当性を)国際的に主張する助けとなる」と解説する。
■落としどころを模索するオバマ政権
米シンクタンク「外交問題評議会(Council on Foreign Relations)」のリチャード・ハース(Richard Haass)会長は、いかなる軍事行動であっても、アサド政権が化学兵器という禁じられた大量破壊兵器を使えば「一線を越える」ことになるとしてきたオバマ大統領の言葉を裏打ちするものでなけれならない、と語っている。「オバマ政権は落としどころを模索しているように思える。大量破壊兵器に対する規範の強化につながるくらい大きく、また『一線を越えるな』という警告に信ぴょう性を持たせるほど大きく、しかし同時に、米国がこの内戦の事実上の主役となってしまうほどには大きくも、無制約でもない落としどころだ」
安保理は、1999年のコソボ紛争中に北大西洋条約機構 (NATO)がセルビアを空爆した際にも無視された。ハース氏は今回も米国と同盟諸国は、NATOやアサド政権に反対するアラブ諸国などによってある程度の「多国籍性」を示せると主張する。いわば「ある種の『有志連合』を作ることができ、そうすれば数十か国が参加するだろう」と予測している。
■すでに懸念の声も
しかし、すでに懸念を持っている国もある。スウェーデンのカール・ビルト(Carl Bildt)外相は、そうした試みは安保理の決議を通じた行動でなければならず、現在、化学兵器の使用に関して調査するために現地入りしている国連調査団の報告を待つことが重要だとくぎを刺した。米国と親しい同盟国のある国連大使も「軍事行動を開始する前に化学兵器が使われたことを示す何らかの確証を見たい」と述べた。
ゴーワン氏は「もしもオバマ大統領(の目標)が、化学兵器の使用に対する限定的で処罰的な措置から、(シリアの)体制変革へと移行した場合、オバマ氏は米国の軍事行動に対する国際社会の支持が急速に薄れるのを目の当たりにすることになるだろう」と語った。(c)AFP