【8月25日 AFP】エジプトで起きているイスラム主義組織「ムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)」に対する弾圧と、同胞団を出身母体とするムハンマド・モルシ(Mohamed Morsi)前大統領の追放によって、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)が勢いづき、イスラム過激派の新世代を引き寄せて、中東に新たな戦線を築く可能性を専門家らが警告している。

■エジプト軍の弾圧が過激化させる

 仏パリ政治学院(Sciences-Po)の中東専門家ジャンピエール・フィリウ(Jean-Pierre Filiu)氏は「平和的なデモが流血を伴う方法で弾圧されたことで、政治プロセスは無益だと確信した少数のイスラム教徒が暴力に訴えるのではないかと恐れられている。そうなればエジプト軍は、自分たちが戦っていると主張しているテロリズムそのものを助長させることになる」と述べている。

 アラブ諸国の中で最も人口の多いエジプトは、すでにイスラム主義急進派の温床となっていることが知られている。アルカイダの現最高指導者アイマン・ザワヒリ(Ayman al-Zawahiri)容疑者や、2001年の米同時多発テロのハイジャック・グループの主犯格、モハメド・アタ(Mohammed Atta)容疑者はエジプト人だ。

 ザワヒリ容疑者の兄弟を、モルシ前大統領の支援者としてエジプト当局が逮捕したことから、ザワヒリ容疑者はエジプト軍が主導する暫定政権に対して武装蜂起するよう、支持者らにしきりに呼び掛けている。

■世界の「聖戦」を決定づける今夏のエジプト

 米中央情報局(CIA)の元情報分析官で、現在はブルッキングス研究所(Brookings Institution)に所属するブルース・リーデル(Bruce Riedel)氏は「ザワヒリの視点では、エジプト人はモハメド・アタに追随しテロリズムに訴えるべきで、近くにいる敵はエジプト軍であり、遠くの敵はそのエジプト軍に武器と訓練を提供している米国だとなる」と解説している。そして「世界で起こるジハード(聖戦)の未来を形作っているのは、この夏のエジプトだ。次世代アルカイダが生まれている」という。

 14日に首都カイロ(Cairo)でエジプトの治安部隊が、モルシ支持派の抗議行動の拠点2か所を強制排除したが、その以前からインターネット上では急進派のグループたちが武装闘争を呼び掛けていた。7月5日には「エジプトのアンサール・アル・シャリーア(Ansar al-Sharia in Egypt)」と名乗る新たなグループが、「エジプトにおける対イスラム戦争が布告された」として自分たちの「旗揚げ」を宣言した。

■以前から温床のシナイ半島

 ソマリアのアルカイダ系イスラム過激派組織シャバブ(Shebab)も、エジプトのイスラム教徒らに武装蜂起を呼び掛けている。シャバブはマイクロブログのツイッター(Twitter)上に「民主化の要求など忘れて武器を取れ。われわれの大虐殺を企む殺りく者から、自分たちの身を守れ」というメッセージを投稿した。

 政情不安なシナイ(Sinai)半島は、軍によってモルシ大統領が解任された7月3日以降、イスラム武装勢力による攻撃が激しさを増しており、アルカイダにとって完璧な「培養器」だと専門家らは言う。イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)の両方と接するシナイ半島は長年、密輸や武装攻撃の温床となってきた。

   「ガザ地区の封鎖が続いていることもまた、マフィア型の経済の糧となり、それがジハーディスト(イスラム過激派戦闘員)たちのネットワークや武器密輸業者に恩恵となっている。さらにエジプト軍が引き起こした流血の事態は、この地域のジハーディストたちの脅威をいっそう高めるだろう」とフィリウ氏は言う。

 またリーデル氏は、シナイ半島には隠れられる辺境の地があり、さらにエジプト政府や軍からは大きく疎外されている遊牧民ベドウィン(Bedouin)の支援を得られることから、アルカイダにとって魅力的な拠点となっているという。

 同氏はさらに「エジプト軍のクーデターとそれ以降の流血の事態は、過去20年間のどんな出来事にも増して、アルカイダの言説に説得力を与えている。カイロで今年の夏に起こっていることは今後何年か、アルカイダの言説の中心点となるだろう」と語った。(c)AFP/Michel MOUTOT