【8月23日 AFP】内戦が続くシリアで政府軍による化学兵器の使用が疑われている問題について、専門家らは22日、被害者にみられるけいれんや瞳孔の縮小、呼吸困難などは神経ガスの症状である可能性があるとの見解を示した。そのうえで、確証を得るために被害者の血液や尿の検査が必要だと指摘した。

■神経ガスの症状と一致

 シリアの反体制派は、21日の政府軍の攻撃による死者は1300人以上だと述べている。人権活動家らが公開した動画などには、口から泡を吹く人や、呼吸困難に陥った被害者に酸素吸入しているとみられる医師、意識不明状態の子どもたちに蘇生を試みる医師などの姿が写っている。化学兵器や防衛の専門家らは、これらはサリンやVXガスといった神経ガスにさらされた際の症状と一致すると述べている。

 化学兵器専門家のジャン・パスカル・ザンダース(Jean Pascal Zanders)氏は、結論を導くにはさらに多くの情報が必要だとしながらも、「症状のうちの多くが、確実に(化学兵器使用の)可能性を示している。私が見た映像から判断すると症状の多くが有機リン酸系の中毒症状と一致する」ことは明らかだと述べた。

■急がれる被害者の検査

 ただし、確証を得るには化学兵器の被害が疑われる患者らを調べるしかないという。フランスのシンクタンク、戦略研究財団(Foundation for Strategic Research)のオリビエ・ルピック(Olivier Lepick)氏は「化学兵器が使用されたものと強く推測できるが、(サリンが体内で分解された後に)血液や尿内に残る代謝物の存在など科学的証拠が必要だ」と指摘した。

 ザンダース氏によれば、シリア軍が化学兵器としてサリンガス、マスタードガス、VXガスを保有しているとの見解は広く周知されているという。さらにルピック氏は、シリア軍にはそうしたガスの搭載が可能なロケット弾や航空爆弾、迫撃砲やスカッドミサイルなどの装備もあると述べている。

 最初に公開された被害者の動画を見たザンダース氏は、青紫がかった顔色、口の周囲に見られる黒い線、せき込みなど、典型的な窒息の症状が出ていると指摘した。さらに後の動画では、瞳孔の縮小やけいれんといった神経ガスに特徴的な症状が現れている。

 武装解除や軍縮に関する専門家で化学者のラルフ・トラップ(Ralf Trapp)氏も「症状だけではなく、全体の状況からみて(神経ガスを使用した可能性は)非常に強い」と話す。トラップ氏によれば、神経ガスの有毒物質は被害者の尿に数日間、血液中には数週間残るという。このため、欧米諸国は化学兵器使用の有無を調べるため19日にシリア入りした国連の調査団を攻撃現場に立ち入らせるようシリア政府に要求しているが、トラップ氏は「まだ間に合う」と強調した。

 その一方で、患者の治療に当たった医師や看護師らが二次被害の症状を呈していないとの指摘もあるが、これについてザンダース氏は、患者の体に付着した有害物質は水で洗い流しているからだと説明できると話した。

■既存の化学兵器ではない可能性も

 スウェーデン・ストックホルム国際平和研究所(Stockholm International Peace Research InstituteSIPRI)の「化学・生物兵器に対する安全保障プロジェクト」を率いるジョン・ハート(John Hart)氏は、「おそらく、何らかの有害化学物質が関与しているだろう。必ずしも昔からある化学兵器とは限らない」と述べている。

 サリンのような神経ガスに使われる化合物である有機リン酸は、第2次世界大戦中にナチス・ドイツの科学者たちが開発した麻痺作用を持つ無臭のガスで、1988年にはイラクの独裁者だった故サダム・フセイン(Saddam Hussein)元大統領の政権がクルド人虐殺に使用した。(c)AFP/Laurent BANGUET