【12月17日 AFP】トルコ南部の難民キャンプに避難してきたシリア難民たちは、食糧支援の配給の列に人だかりを作ることなく、商店に並んでデビットカードで買い物をする。これは、国連(UN)の世界食糧計画(World Food ProgrammeWFP)とトルコの赤新月社(Red Crescent)が始めた実験プロジェクトだ。支援物資の入った箱の代わりに、決まった金額がチャージ(入金)されたカードが難民に配られている。

 トルコ赤新月社のアフメト・ルトフィ・アカル(Ahmet Lutfi Akar)代表は、このスマートカード・システムを試験導入した理由について、「人間の尊厳を尊重しつつ、露骨でない方法でシリアの人々に支援を提供できるからだ」と説明した。「選択の余地のない箱入り支援物資を渡すより、ずっと良い。難民たちは好みに応じて好きな物を店で買える」

■目指すは10万人配布

 WFPによると、トルコ国内でこの「食糧Eカード」で支援を受けているシリア難民は、11月末時点で約2万2000人。1万3000人ほどが暮らすトルコ南部国境沿いのキリス(Kilis)県オンクピナル(Oncupinar)の同国最大規模の難民キャンプや、隣県ハタイ(Hatay)の複数のキャンプで試験運用されている。

「(トルコ国内の)他地域への拡大も予定している。2013年半ばまでに10万人を援助するのが目標だ」と、WFPの地域責任者ダリ・ベルガスミ(Daly Belgasmi)氏は語る。

 カードには毎月80トルコリラ(約3800円)が入金される。ちょうど、バランスの良い食生活を支えるに足る金額だという。トルコのハルク銀行(Halkbank)が提供するビザエレクトロン(Visa Electron)のカードで、トルコ民間小売チェーンが営業する特定店舗でのみ使用可能だ。

■難民からは喜びの声

「このキャンプには何でもある」。シリア政府軍と反体制派との衝突で子ども3人を亡くした教師のイメド・ムヒブ(Imed Muhib)さん(48)は、オンクピナル難民キャンプにある商店の外でAFPの取材に語った。「カードで必要なものを全て買える。与えられるものをただ受け取るんじゃなく、欲しいものを選べるんだ」

 夫が反体制派の「自由シリア軍(Free Syrian ArmyFAS)」に参加しているというハスナ・スファン(Hasna Sufan)さんは、子ども4人とキャンプに避難してきた。「夫の留守中に子どもたちと買い物をするのが楽しい」という。

 購入時にはレジでカードのチップに記録された指紋情報と使用者の指紋を照合するので、「とても安全なシステムだ」とトルコ赤新月社のアカル代表は胸を張る。

■難民流入続くトルコ

 トルコには現在、12万人のシリア難民が暮らす。だが関係者によれば、亡命した軍人や政治家、さらに難民キャンプに入れない民間人を含めると、その数は20万人近くに上るという。

 トルコ当局は絶え間ない難民流入に懸念を表明し、シリア国内に民間人を保護する安全地帯を設けるよう呼び掛けてきた。けれど、その呼び掛けは実を結んでおらず、10万人を超す難民は受け入れられないと言いつつ、トルコは現在も難民に門戸を開いている。(c)AFP/Fulya OZERKAN