【7月9日 AFP】ミャンマー北部カチン(Kachin)州では、ミャンマー軍と少数民族武装勢力のカチン独立軍(Kachin Independence ArmyKIA)との間で泥沼の「資源戦争」が繰り広げられている。

 ミャンマー軍とカチン独立軍の17年に及んだ停戦協定が前年6月に破綻したのをきっかけに、カチン州では激しい戦闘が展開、以降、最大7万人の住民らが避難を余儀なくされている。

 前年11月以降、ひすいビジネスで財を築いた大物実業家が中心となって地元実業家4人のグループが停戦交渉を進めている。交渉を重ねた結果、政府軍に戦闘の中止を命じる大統領令の発令にまでこぎつけたが、政府軍はさらに多くの部隊を投入し続けている。

「大統領はボクシングの試合の審判のようなものだ。『終了』と言えば戦いは中止しなければならない。だが、実際はそうなっていない」と、ひすいビジネスの大物実業家Yup Zau Hkawng氏が5月末にAFPの取材で語った。

 中国とインドにはさまれたカチン州。そこに存在する豊富な自然資源こそが内戦の原因であり、停戦の障害になっていると考えられている。

 最近、カチン州の州都ミッチナ(Myitkyina)で開催された政府のタウンホール・ミーティングで、ある住民が次のように問いかけたという。

「木材、ひすい、金。カチンの自然資源は全部、ミャンマー南部の開発のために投じられている。カチンの開発はしないのか?」

■「これは資源戦争だ」

 カチン州での迫害や避難民などについての報告書を最近執筆した国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(Human Rights WatchHRW)のコンサルタント、マシュー・スミス(Matthew Smith)氏は、「紛争地域では数百万ドル規模のプロジェクトが複数進められている。紛争にかかわるすべての当事者が、この戦争の帰結に経済的な利害を抱えている。中国こそが、誰も話したがらない重要な問題だ」と語る。

 カチン州では現在、ミャンマー西部ラカイン(Rakhine)州からカチンの武装勢力が実効支配する地域を通って、中国の雲南(Yunnan)省へとガスと原油2本のパイプラインを建設するプロジェクトが進められている。

 カチンの天然資源については、ミャンマー政府と親密な関係を持つ中国企業や地元実業家らが政府から権利を獲得したとの臆測も上がっており、また中国に電力を供給するための水力発電施設をカチン州に建設する計画も複数立ち上がっている。

「これは資源戦争だ。カチンの富を支配するための戦争だ」とHkawng氏は語り、「カチンの住民にはほとんど利益が回ってこない上、この(資源)戦争で苦しめられている」と続けた。

■終わりの見えない紛争

 国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)は、最新の報告書で、政府軍による少数民族への「無差別攻撃」は「戦争犯罪」に相当と批判。またKIAに対しても、少年兵と地雷を用いていることを非難した。

 和平交渉グループは現在、停戦協定の締結を目指す一方で、武装勢力が実効支配する前線地域からの政府軍の撤退を提唱している。

 Hkawng氏によると、前年12月にはテイン・セイン(Thein Sein)首相が数日以内の部隊の撤退を約束したこともあった。だが政府軍による武装勢力拠点への攻撃は現在も続いている。

「唯一の出口は、政治的な決断である」(Hkawng氏)

(c)AFP/Anand Chandra