【3月12日 AFP】側近に厄介払いされ、嫉妬深い妻に裏切られ、認知症を患い、ただ死を覚悟することしか残されていない弱々しい男――国際指名手配リストで最重要犯とされた人物の「最期の日々」は意外な展開だったのかもしれない。

 2011年5月2日にパキスタンで米海軍特殊部隊の急襲によって殺害された国際組織アルカイダ(Al-Qaeda)の元指導者、故ウサマ・ビンラディン(Osama Bin Laden)容疑者の潜伏生活について、パキスタン軍の退役将校が8か月をかけた調査結果を明らかにした。

 シャウカット・カディル(Shaukat Qadir)元パキスタン軍准将は、アシュファク・キアニ(Ashfaq Kayani)陸軍参謀長と個人的に親しい関係を用いて、ビンラディン容疑者殺害後にその妻を尋問した軍の情報機関、三軍統合情報部(Inter-Services IntelligenceISI)の担当官に接触し、尋問記録を目にした。調査の結果、カディル元准将が提示したのは、興味をかき立てられるビンラディン像だ。

■911後は認知能力に障害?

 2001年9月11日の米同時多発テロ事件の後、ビンラディン容疑者は認知能力に障害が生じ始め「アルカイダは2003年の時点で、彼を引退させることを決定した。何らかの変性疾患にかかり、妄想するようになったからだ」とカディル元准将は考えている。アルカイダの真のブレーンと目されるエジプト人医師、アイマン・ザワヒリ(Ayman al-Zawahiri)容疑者が業を煮やし、「ビンラディン外し」を決定したという筋書きだ。

 カディル元准将はこれはあくまで自説で証拠もないと述べているが、自説がISIの説明と一致しており、自分が軍に片棒を担がされている可能性は認めた。

 ビンラディン容疑者の最期の日に米軍が踏み込んだ潜伏先は、アボタバード(Abbottabad)にあるパキスタン軍のエリート士官学校の目と鼻の先だった。ここにビンラディン容疑者が5年間も潜伏していたことが発覚し、ISIは情報収集能力の欠如を批判され、あるいはビンラディン容疑者をかくまった疑いさえかけられ、今だ防戦に必死だ。この恥辱を消し去ろうとでもするかのようにパキスタン当局は2月、潜伏先の邸宅を取り壊してしまった。

■「古い妻」の突然の出現からすべてが変わった?

 カディル元准将は今回の調査で、アフガニスタンと国境を接するパキスタン北西部の部族地域も訪れた。自らが1998年の退役まで配属されていた場所であり、アルカイダがこの10年間、潜伏拠点としてきた一帯だ。アルカイダがビンラディン容疑者の隠れ家として、最終的にアボタバードが最適だと判断し、そびえ立つ壁に囲われた邸宅を建てるまで、ビンラディン容疑者はこの部族地域の潜伏拠点を頻繁に行き来していたとみている。

 アボタバードの邸宅ができると、ビンラディン容疑者は妻のうち2人を連れて移り住んだ。特に3階のベッドルームは、妻の中で最も若く、ビンラディン容疑者が最も気に入っていたとされるイエメン人のアマル・アブドゥルファタ(Amal Abdulfattah)さんと共にした。

 カディル元准将の推測では、事態が急転したのは2011年3月だ。

 2001年末、ビンラディン一家がアフガニスタンからパキスタンへ逃げ込んだ中で1人イランへ逃れ、以来、行動を共にしていなかった妻の1人、カイリア(Khairia)さんが突然、アボタバードの一家の前に現れた。

 カイリアさんをイラン当局が出国させたのは2010年末だったが、彼女はビンラディン容疑者の元へ戻る前の数か月間を、アフガニスタン国内のアルカイダのキャンプで過ごしたとカディル元准将は述べる。こうしてカイリアさんが突然現れてから2か月後、潜伏先は米軍に急襲された。
 
 カディル元准将はカイリアさんが夫、ビンラディン容疑者を裏切ったと確信している。「すべてカイリアが現れてから始まった。彼女とは(家族の)全員が問題を抱えた。それまで他の2人の妻は問題なく暮らしていた」
 
 アボタバードにいたビンラディン容疑者の息子のハリド氏も、カイリアさんに疑いを抱いた。「彼は彼女に何度も尋ねたようだ。『どうしてここへ来たのか、父から何が欲しいのか』と」。その度にカイリアさんは「私には夫のためにしなければならないことが、あと1つある」と答えたようだ。ハリド氏は父であるビンラディン容疑者に「彼女は裏切るつもりじゃないか」と忠告したが、ビンラディン容疑者は「それならば、そうさせておけ」と答えるだけだった。

 またビンラディン容疑者は他の妻たちに逃げるよう説得を試みたが、妻たちがそれを拒んだとカディル元准将は説明する。

 米軍はそれよりもずっと以前から、アルカイダの密告者から潜伏先の情報を得ていたと主張している。しかしカディル元准将は、アルカイダ・ナンバー2だったザワヒリ容疑者が自らの野心にかられ、米軍をおびきよせるためにカイリアさんを利用したのだと推測している。その思惑通りか、ビンラディン容疑者がそこにいることを確信させるカイリアさんの電話を米軍は盗聴していた。(c)AFP/Emmanuel Duparcq