【11月2日 AFP】半年以上にわたったリビア内戦中、ムアマル・カダフィ(Moamer Kadhafi)大佐がひそかに備蓄してきたマスタードガスなどの化学兵器がカダフィ派に使用されることのないよう、保管庫を厳重に見張る極秘任務についていた人々がいる。リビア人の専門家と北大西洋条約機構(NATO)の情報員で構成された秘密チームだ。

■隠されてきた2つの保管庫

 カダフィ大佐は以前、中部ワダン(Waddan)近郊アルジャフラ(Al-Jufra)のオアシスに化学兵器を保管していることを公表し、2004年に国連(UN)の査察を受け入れた。同地では10年、化学兵器の無力化が国際監視の下で開始され、反体制派が蜂起した今年2月まで続けられていた。

 ところが、リビア暫定政権は1日、カダフィ大佐が国連の目を盗んで備蓄を続けていた化学兵器の保管庫が他に2か所あったと発表。化学兵器処理を担当するリビア人専門家、ユスフ・サフィ・アディン(Yussef Safi ad-Din)氏によると、うち1つの保管庫には「即座に使用できる」状態の兵器もあった。

 2か所に備蓄されていた有毒ガスは総量11.25トンにも上るという。既に添加剤によって「中和」され、健康被害を及ぼす危険はなくなったとアディン氏は述べた。

■効果があったチームの活動

 リビア反体制派は蜂起直後から、カダフィ派が化学兵器を使うのではないかとの強い恐怖を抱いていた。そこで、地元の専門家とNATOの情報員で作る特別チームが、反体制派の軍最高司令官で元カダフィ政権内相のアブドゥル・ファタハ・ユニス(Abdel Fatah Yunes)将軍の指揮下に編成され、反体制派の拠点となった東部ベンガジ(Benghazi)で内密に活動を始めた。ユニス将軍は7月28日、不審な状況で暗殺されている。

 アディン氏も特別チームの一員だった。「活動の第1段階は、カダフィの支配下にある化学兵器を監視し、使用を阻止することだった」という。

 この活動は功を奏した。カダフィ体制で内務治安当局局長を務め、現在ミスラタ(Misrata)で拘束されているマンスール・ダオ(Mansur Daou)氏はAFPの取材に対し、「カダフィはすぐに化学兵器の使用をあきらめた。米国人たちが至近から監視していたからだ。(近づくと空爆されるので)近づくことさえできなかった」と証言した。

 チームは、国内で工業利用されてきた放射性物質をカダフィ派が回収する可能性にも目を光らせた。特にコバルト60は、放射能をまきちらす「汚染爆弾」の材料にもなる。

「活動の第2段階は、化学兵器の保管庫全ての支配権を握ることだった。われわれの兵士たちが1つずつ制圧していった」と、アディン氏は話した。

■半径50メートル以内に近づけば空爆

 現在、チームはワダンに拠点を移し、問題の処理にあたっている。現場には腰に拳銃を下げた米国人もいたが、記者らが取材を試みると露骨に嫌な顔をしてコメントを拒否した。彼らと話したことがあるというミスラタの反体制派司令官は、「CIA(米中央情報局)だよ」と打ち明けてくれた。

 ワダン以外の2か所の保管庫の場所は、今も秘匿されたままだ。リビア人関係者によると、3か所の保管庫の警備はとにかく厳重だという。ある兵士は「ワダンで3週間前、2人の兵士が乗った車が空爆で破壊された。保管場所に近寄りすぎたからさ。2人とも無傷だったけどね」と言って笑った。

 数日前にも、同じ場所をうろついていた兵士らがスタン爆弾で攻撃された。アディン氏は、好奇心のあまり保管庫の半径50メートル以内に近づいた者は誰でも、空爆を覚悟しなければならないと語った。(c)AFP/Marc Bastian

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