【9月10日 AFP】エジプト政府は10日、同国の首都カイロ(Cairo)のギザ(Giza)地区にあるイスラエル大使館が入居するビルをデモ隊が襲撃して警官隊と衝突したことを受け、警戒態勢を宣言した。

 大使館襲撃は、ホスニ・ムバラク(Hosni Mubarak)前大統領体制が崩壊した2月からエジプトを暫定統治している軍最高評議会に改革の推進を要求する集会を開いていた約1000人のデモ隊が、タハリール広場(Tahrir Square)からイスラエル大使館に行進した9日に発生した。

 デモ隊はビルの周囲の防護壁を大型のハンマーで破壊して大使館に侵入し、歓声を上げる群集たちに向けて大量の外交文書を撒き散らすなどしたため、エジプトの特殊部隊が大使館に突入して大使館内に取り残されたイスラエル大使館員ら6人を救出した。

■エジプト特殊部隊がイスラエル大使らを救出

 あるイスラエル政府当局者が10日、イスラエルのエルサレム(Jerusalem)で匿名を条件にAFPに語ったところによると、大使館から救出されたのはイツハク・レバノン(Yitzhak Levanon)大使ら大使館員とその家族の計6人で、次席大使1人を残して全員がエジプトを出国した。次席大使はエジプト政府との接触を維持するためエジプト国内にとどまるという。

 この当局者は「大使館に閉じ込められた6人は、現実的な生命の危険があった」と語るとともに、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相が9日夜にエジプトの情報機関トップと連絡をとったことも明らかにした。

 デモ隊は警察のトラックに放火したり、ギザ地区の警察本部を襲撃したりもした。エジプト保健省はこのデモにより、9日夜から10日にかけて心臓発作で1人が死亡したほか、約450人が負傷したと発表した。

■エジプト・イスラエル関係悪化

 イスラエルのエフド・バラク(Ehud Barak)国防相の事務所は、同国防相が10日早朝に米国のレオン・パネッタ(Leon Panetta)国防長官に電話をして、カイロのイスラエル大使館の保護に協力を求めたことを明らかにした。バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領は、エジプト政府にイスラエル大使館をデモ隊から守るよう要請した。これを受けてエジプトの兵士数百人と装甲車が現場に急行した。

 武装勢力を追っていたイスラエル軍が8月18日にエジプトとの国境付近でエジプトの警察官5人を殺害したことについてエジプト政府はイスラエルに公式な謝罪を要求しており、カイロのイスラエル大使館前では大規模な抗議デモが繰り返されていた。

 エジプトはアラブの国として初めて1979年にイスラエルと平和条約を結んで外交関係を樹立したが、ムバラク前大統領が辞任した2月以降、活動家の間ではイスラエルとの平和条約の見直しを求める声も上がっていた。(c)AFP/Mona Salem