【9月2日 AFP】まもなく発生から10年を迎える9.11米同時多発テロで、一部の米国人にとって最も身の毛のよだつことは、3000人近い命が奪われたという事実ではない。首謀者は米政府だったのではないかとの疑惑だ。

 政府・民間を問わない数えきれないほど多数の調査報告やメディア報道にもかかわらず、世界貿易センタービル(World Trade CenterWTC)を倒壊させ、国防総省を破壊したのは国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)のウサマ・ビンラディン(Osama Bin Laden)容疑者が送り込んだ19人のハイジャック犯だ、という説明をいまだに信じられずにいる人は、少なくない。

 本当は、当時のジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)政権内の誰かかイスラエルのスパイが、あらかじめ仕掛けておいた爆発物とミサイルで攻撃したのではないか、そう疑っているのだ。米政府は直接攻撃こそしなかったが、攻撃計画を事前に把握しながら阻止する手だてを打たなかったと信じている人もいる。

 いずれの説も、ブッシュ政権の動機については「イラクとアフガニスタンへの進攻を正当化したかった」「米市民の自由な言論を弾圧したかった」などと考えられている。

■米国民3人に1人が陰謀説を支持

 荒唐無稽に聞こえる政府陰謀説だが、支持者は決して少数派ではない。2006年に米スクリップス・ハワード財団(Scripps Howard Scripps Howard)が実施した世論調査では、何らかの陰謀があったと思うとの回答は36%に上った。その他の世論調査でも、陰謀説はアラブ世界ばかりかフランスでも広く支持を集めている。

 米国内では10年後の今も、「Scholars for 9/11 Truth and Justice(9.11の真実と正義のための学者集団)」や「Architects and Engineers for 9/11 Truth(9.11の真実のための建築家・エンジニア集団)」といった複数の団体が、「米史上最大の政府の陰謀」を暴こうと活発に活動している。

『9・11事件は謀略か―「21世紀の真珠湾(しんじゅわん)攻撃」とブッシュ政権(The New Pearl Harbor)』などの著作で陰謀説を唱えるデービッド・レイ・グリフィン(David Ray Griffin)氏は、「本当のアホは政府の説明をうのみにするやつ」だと、カリフォルニア(California)州のラジオ局KPFAの番組でグリフィン節をさく裂させた。「奇跡を科学原理、特に物理や化学の原理で説明できない事象と定義するなら、政府の説明には10個以上の奇跡があることになる」

■9.11の都市伝説

 さまざまな政府陰謀説は、ディラン・アヴェリー(Dylan Avery)監督がインターネットで公開したドキュメンタリー映画『ルースチェンジ(Loose Change)』にまとめられている。グーグル(Google)で約1億2500万回、ユーチューブ(YouTube)で約3000万回の閲覧回数を記録したこの作品は、ニュース映像やインタビューを切り貼りして9.11に関する次のような「都市伝説」を提示・検証している。

- ツインタワーは飛行機の激突だけでは倒壊などしないはず。

- 世界貿易センターの第7ビルは、飛行機が激突していないのに驚くほど倒壊が速かった。あれはビル解体のプロの仕業だ。

- ニューヨークの株価は事件直後に下落した。一部の人間がテロ発生を事前に察知していたからに違いない。

- 国防総省への攻撃は、アメリカン航空(American Airlines)77便の激突ではなく、米軍のミサイルによるものだった。

- ユナイテッド航空(United Airlines)93便はペンシルベニア(Pennsylvania)州の平原に墜落したとされているが、おそらく戦闘機により撃墜された跡、痕跡が消された。  ただし、これらの疑問については「www.debunking911.com」や「www.screwloosechange.blogspot.com」などの反陰謀説ウェブサイトが改めて検証し、ほぼ全てについて「間違いだ」と結論付けている。

■陰謀説の根源にある心理

 カリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis)のキャシー・オルムステッド(Kathy Olmsted)教授(歴史)は、極端な政府不信も分からないでもないと話す。というのも、ブッシュ政権自らが、イラクのサダム・フセイン(Saddam Hussein)元大統領が大量破壊兵器を保持していて9.11に関与した、という自作の陰謀説を広めることに膨大なエネルギーを費やしたからだ。

「ブッシュ政権がイラク戦争中、あからさまなうそをついたとまでは言えないにせよ、事実を歪曲(わいきょく)したのは確かだ。だから人々は問いかけるのだ、『9.11に関する説明が真実と言い切れるのか』と」

 陰謀説は、10年たっても事件のショックを乗り越えられない人々にとっては助けになるかもしれない。米キニピアック大学(Quinnipiac University)のリッチ・ハンレー(Rich Hanley)教授(メディア・大衆文化)は、次のように説明した。「カッターナイフで武装しただけの19人の男が、これほどの被害をもたらし大人数を殺害した、と信じるのは難しい。それだけ、米国人にとって精神的にショッキングな事件だったのだ」(c)AFP/Sebastian Smith