【7月25日 AFP】ノルウェーで93人が死亡した爆破・銃乱射事件の背景として、同国を始め各地の治安当局が近年、警戒対象をイスラム原理主義者によるテロリズムに集中しすぎたため、他の脅威が見過ごされたとの指摘が専門家らから出ている。

 22日の事件では、ノルウェーの首都オスロ(Oslo)中心部の首相府近くで爆発が発生して7人が死亡、その数時間後、オスロ郊外の島で開かれていた与党・労働党のサマーキャンプで男が銃を乱射し、計85人が死亡した。

 発生当初はイスラム勢力の関与が疑われたが、逮捕されたのは、生まれも国籍もノルウェーのアンネシュ・ベーリング・ブレイビク(Anders Behring Breivik)容疑者(32)だった。

 警察発表などによると、ブレイビク容疑者は「キリスト教原理主義者」を名乗り、過去にポピュリスト右派政党の進歩党(FrP)に所属していたほか、インターネット上ではスウェーデンのネオナチ・フォーラム「ノルディスク(Nordisk)」に入っていた。また、犯行前にネット上に発表されていた「声明」からは、イスラムに対する憎悪が事件の動機だったことがうかがえる。

■当局が怠っていた極右勢力への警戒

 ノルウェー警察当局は、脅威に関する年次報告の2010年版で、極右組織はノルウェーにも存在するが、ここ数年の活動は鈍く「2011年も深刻な脅威にはならないだろう」と評価。その理由として「強力な指導層が存在しないため、そうしたグループの成長には限界がある」と分析していた。一方で、今後数年のノルウェー社会にとって直接の脅威は「基本的に」イスラム原理主義者だという見解を示していた。

 ナショナリストや人種差別主義者、ナチスに追随する組織や運動から脱退したがっている人びとを支援する隣国スウェーデンの団体「エグジット(Exit)」のRobert Oerell氏は、イスラム原理主義者に警戒が集中したことが、極右勢力の利益になったと指摘する。この傾向によって「ノルウェーはイスラムの脅威下にあるという彼ら(極右)の主張が正当化される」(同氏)からだ。

 極右勢力に詳しい英ノッティンガム大学(University of Nottingham)のマシュー・グッドウィン(Matthew Goodwin)氏も、「この十年、英国の治安当局は北アイルランドか国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)によるテロの警戒に重点を置き、代わりに極右勢力への警戒が抜け落ちた。アフガニスタンやイランに派兵してきたスカンディナビア諸国も、同様の問題を抱えている」と言う。

 Oerell氏は、「ノルウェーの極右勢力運動はスウェーデンほど大きくなく、組織系統もしっかりしていないと認識していた。その点では(今回の事件に)驚いている」としつつ、「1人の人物が単独でやったという情報には納得する。(1995年の米オクラホマシティー連邦政府ビル爆破犯)ティモシー・マクベイ(Timothy McVeigh)を思い出す」と述べた。

 この点にはグッドウィン氏も「ティモシー・マクベイは米国の極右勢力に現在も崇められている」と同意。「ノルウェーの事件の報を聞いた瞬間から、極右だろうと思った」と語った。

■反イスラムの「新しいテロリズム」

 スカンディナビア半島全体の極右勢力の動きを監視するスウェーデンの団体「エクスポ(Expo)」のDaniel Poohl氏は、今回の事件の容疑者は、反イスラム感情に煽られた新しいタイプのテロリズムを代表すると言う。

 エクスポによると、ブレイビク容疑者が入っていたネオナチ・フォーラムのウェブサイトには、暴力を扇動する投稿や、架空の暴力革命を描いた78年の米国の小説『Turner Diaries』に関するスレッドがあった。この小説はティモシー・マクベイが刺激を受けたとされる本だ。フォーラム内での討論の内容は「白人パワーを称える歌から、民主主義を粉砕するための政治戦略」まで「人種差別的な」性質のものが多いという。(c)AFP/Rita Devlin Marier