ビンラディン容疑者殺害、パキスタンに広がる陰謀論
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【5月3日 AFP】国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)の最高指導者ウサマ・ビンラディン(Osama Bin Laden)容疑者が米特殊部隊に殺害されたという発表について、現場となったパキスタンの首都イスラマバード(Islamabad)郊外のアボタバード(Abbottabad)では、米国による陰謀ではないかという見方が野火のように広がっている。発表には奇妙な点があまりに多いというのだ。
松の木が点々と生える山あいにあるアボタバードには軍の駐屯地もあり、経済的にも比較的恵まれている。「世界の最重要指名手配者」がパキスタン国内のどこに潜伏しているか考えようとしたときに、一番最後にその名が挙げられるような場所だろう。
アボタバードはパキスタン北西部の他の地域と違って、住民は西洋風の衣服を着ているし、ビンラディン容疑者の出身国サウジアラビアと違って車を運転する女性もいる。AFPの取材に応じたアボタバードの住民たちも、この街でアラブ人を見たことはないと口をそろえる。
住民たちによると、真夜中に突然ヘリコプターのごう音が聞こえたので何か起きたと分かったという。さらに大きな爆発音がして、激しい銃撃戦の音が聞こえ、飛び起きた住民たちは震え上がった。
しかし、2500万ドル(約20億円)の懸賞金がかけられていた男がこの街で殺されたことを、バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領が発表するのをテレビで見るまで、何が起きたのかは分からなかったという。
高等教育を受けた専門職の人びとの反応は、時間を追うにつれて驚きが懐疑に、懐疑が不信に変わっていった。今では、公式にはこの国の同盟国である米国への不信を背景に、パキスタンに深く根を張っている陰謀論が取りざたされている。
ビンラディン容疑者が殺害された邸宅からマメ畑1つを隔てたところに住んでいるバシール・クレシ(Bashir Qureshi)さん(61)は、米国の発表をまともに取り合っていない。
クレシさんは「あんな発表を信じている人なんていないよ。このあたりでアラブ人を見たことはない」と笑う。「彼ら(米国)は(ビンラディン容疑者の)遺体を海に流したなどと言っているが、そんなことはない。彼はそもそもここにいなかったのさ」
現場を警備する警察官でさえ同様の疑いを隠さない。「ビンラディン容疑者がここにいたとは思えませんね。ここに来るよう午前3時に言われて来たのですが、われわれは何も見ませんでした。作戦は終わった後だったんです」
製薬会社で働いているというシャキル・アフメド(Shakil Ahmed)さんは、米国は10年に及んだアフガニスタンの旧支配勢力タリバン(Taliban)との戦いを終わらせて、アフガニスタンに駐留している13万人の外国軍を撤退させたいがために嘘をついたのだと主張する。
「米国はアフガニスタンでの戦争を終わらせたがっている。ウサマが死んだので(撤退の)口実ができた、と米国は言いたいのだろう。そういうストーリーを作って米国はパキスタン軍の名誉を傷つけてきた。ウサマを殺したというなら、米国はなぜ遺体を見せないんだ?」
■公開されない遺体、くすぶる陰謀論
ある米高官は米軍はアラビア海(Arabian Sea)の米空母の艦上でイスラム教式にビンラディン容疑者を弔い、遺体はおもりを付けた袋に入れて水葬にしたと語っている。だが、米国はその前に殺害の証拠を示していない。それが米国の発表への疑念の最も大きな理由だろう。
エジプト・カイロ(Cairo)のイスラム教スンニ派の最高権威機関は、イスラム教は海での水葬に反対していると述べている。パキスタンのラホール(Lahore)でも、2009年にラホールで起きた自爆攻撃で父親を失ったイスラム教の著名な聖職者が、水葬があまりに早かったことが疑念を呼んでいると指摘し、米国の対応に疑問を呈した。
防衛アナリストのイミティアズ・グル(Imtiaz Gul)氏は、反米感情が強い国で陰謀論が起きるのは想定内だと考えるが、誰も遺体を見ていない上、作戦も秘密裏に行われたため、米国が証拠を示さない限り今後も憶測は止まないだろう、との見方を示した。
「ビンラディン容疑者が問題の邸宅に住んでいたことを知っていた人はいなかったので、米国がどこか別の場所でビンラディン容疑者を捉えて、アパッチ(Apache)ヘリコプターで連れてきたのではないかなど、様々な疑いが生じる。またヘリコプターが墜落したというのに、負傷者がいなかったとされていることからも、そのヘリに乗っていたのはビンラディン容疑者だったのではないかとの疑いも出る」
パキスタンの国土、それも首都から車でわずか2時間という場所で米軍の特殊部隊が作戦を実施したことも、パキスタンに対する侮辱とまで言わないとしても、パキスタンの面目を大きく傷つけた。
パキスタン最大の都市で、アフガニスタン派遣部隊への物資輸送に北大西洋条約機構(NATO)が利用している港があるカラチ(Karachi)では、ビンラディン容疑者の殺害に一定の支持が集まった。しかしここでも、米軍の発表に対する疑いの声は聞かれている。
IT専門家のカイセル・カーン(Qaiser Khan)さん(55)は、「ウサマがパキスタン国内で殺されたのか、わたしはいまだに疑わしいと思っている」と語る。「米国は、アフガニスタンなど、どこか別の場所で彼を殺しておいて、パキスタンの名誉を傷つけるためにハリウッド映画のような芝居を打ったのさ」
(c)AFP/Sajjad Tarakzai
松の木が点々と生える山あいにあるアボタバードには軍の駐屯地もあり、経済的にも比較的恵まれている。「世界の最重要指名手配者」がパキスタン国内のどこに潜伏しているか考えようとしたときに、一番最後にその名が挙げられるような場所だろう。
アボタバードはパキスタン北西部の他の地域と違って、住民は西洋風の衣服を着ているし、ビンラディン容疑者の出身国サウジアラビアと違って車を運転する女性もいる。AFPの取材に応じたアボタバードの住民たちも、この街でアラブ人を見たことはないと口をそろえる。
住民たちによると、真夜中に突然ヘリコプターのごう音が聞こえたので何か起きたと分かったという。さらに大きな爆発音がして、激しい銃撃戦の音が聞こえ、飛び起きた住民たちは震え上がった。
しかし、2500万ドル(約20億円)の懸賞金がかけられていた男がこの街で殺されたことを、バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領が発表するのをテレビで見るまで、何が起きたのかは分からなかったという。
高等教育を受けた専門職の人びとの反応は、時間を追うにつれて驚きが懐疑に、懐疑が不信に変わっていった。今では、公式にはこの国の同盟国である米国への不信を背景に、パキスタンに深く根を張っている陰謀論が取りざたされている。
ビンラディン容疑者が殺害された邸宅からマメ畑1つを隔てたところに住んでいるバシール・クレシ(Bashir Qureshi)さん(61)は、米国の発表をまともに取り合っていない。
クレシさんは「あんな発表を信じている人なんていないよ。このあたりでアラブ人を見たことはない」と笑う。「彼ら(米国)は(ビンラディン容疑者の)遺体を海に流したなどと言っているが、そんなことはない。彼はそもそもここにいなかったのさ」
現場を警備する警察官でさえ同様の疑いを隠さない。「ビンラディン容疑者がここにいたとは思えませんね。ここに来るよう午前3時に言われて来たのですが、われわれは何も見ませんでした。作戦は終わった後だったんです」
製薬会社で働いているというシャキル・アフメド(Shakil Ahmed)さんは、米国は10年に及んだアフガニスタンの旧支配勢力タリバン(Taliban)との戦いを終わらせて、アフガニスタンに駐留している13万人の外国軍を撤退させたいがために嘘をついたのだと主張する。
「米国はアフガニスタンでの戦争を終わらせたがっている。ウサマが死んだので(撤退の)口実ができた、と米国は言いたいのだろう。そういうストーリーを作って米国はパキスタン軍の名誉を傷つけてきた。ウサマを殺したというなら、米国はなぜ遺体を見せないんだ?」
■公開されない遺体、くすぶる陰謀論
ある米高官は米軍はアラビア海(Arabian Sea)の米空母の艦上でイスラム教式にビンラディン容疑者を弔い、遺体はおもりを付けた袋に入れて水葬にしたと語っている。だが、米国はその前に殺害の証拠を示していない。それが米国の発表への疑念の最も大きな理由だろう。
エジプト・カイロ(Cairo)のイスラム教スンニ派の最高権威機関は、イスラム教は海での水葬に反対していると述べている。パキスタンのラホール(Lahore)でも、2009年にラホールで起きた自爆攻撃で父親を失ったイスラム教の著名な聖職者が、水葬があまりに早かったことが疑念を呼んでいると指摘し、米国の対応に疑問を呈した。
防衛アナリストのイミティアズ・グル(Imtiaz Gul)氏は、反米感情が強い国で陰謀論が起きるのは想定内だと考えるが、誰も遺体を見ていない上、作戦も秘密裏に行われたため、米国が証拠を示さない限り今後も憶測は止まないだろう、との見方を示した。
「ビンラディン容疑者が問題の邸宅に住んでいたことを知っていた人はいなかったので、米国がどこか別の場所でビンラディン容疑者を捉えて、アパッチ(Apache)ヘリコプターで連れてきたのではないかなど、様々な疑いが生じる。またヘリコプターが墜落したというのに、負傷者がいなかったとされていることからも、そのヘリに乗っていたのはビンラディン容疑者だったのではないかとの疑いも出る」
パキスタンの国土、それも首都から車でわずか2時間という場所で米軍の特殊部隊が作戦を実施したことも、パキスタンに対する侮辱とまで言わないとしても、パキスタンの面目を大きく傷つけた。
パキスタン最大の都市で、アフガニスタン派遣部隊への物資輸送に北大西洋条約機構(NATO)が利用している港があるカラチ(Karachi)では、ビンラディン容疑者の殺害に一定の支持が集まった。しかしここでも、米軍の発表に対する疑いの声は聞かれている。
IT専門家のカイセル・カーン(Qaiser Khan)さん(55)は、「ウサマがパキスタン国内で殺されたのか、わたしはいまだに疑わしいと思っている」と語る。「米国は、アフガニスタンなど、どこか別の場所で彼を殺しておいて、パキスタンの名誉を傷つけるためにハリウッド映画のような芝居を打ったのさ」
(c)AFP/Sajjad Tarakzai