【12月3日 AFP】冷戦時代の対立構図が最後まで残る2国、韓国と北朝鮮が徐々に平和的に南北再統一を果たすという長年の夢は、北朝鮮による韓国・延坪島(Yeonpyeong-do)への砲撃で砕け散ったと専門家らはみている。

 11月23日の砲撃は、朝鮮戦争(1950-53年)休戦以降初めて民間人の居住地域に向けられた攻撃だった。

■緩衝として北を維持したい中国

 内部告発ウェブサイト「ウィキリークス(WikiLeaks)」が最近暴露した大量の外交文書の中には、南北分裂終焉を展望する米外交筋の文書も含まれていた。その一部では、現在の南北軍事境界線以北へ米軍が進攻しない限り、韓国政府の下での朝鮮半島統一を中国が受け入れる可能性についても触れられていた。

 また1948年以来、世襲独裁制を続ける金政権に対する中国政府の不満を示唆する文書もあった。一部の専門家は、中国は金政権をまったく好んではいないが、民主化を果たし親米的な韓国と自国との緩衝として、北朝鮮の体制を維持させたがっていると分析している。

 ただし、専門家の間でも、北朝鮮に対する中国の影響力の程度については意見が分かれる。また最終的に南北再統一が実現しうるかどうかについても見解は様々だ。それでも、ほぼすべての専門家が、南北再統一は平和的な交渉プロセスでは起こらないという見解で一致している。

■再統一、平和的プロセスでの実現はなしか

 前年から今年にかけて起きた様々な出来事を見ると、南北再統一は「平和的ではなく、むしろ暴力的に起こる可能性のほうが高い」と慶應義塾大学(Keio University)のピーター・ベック(Peter Beck)氏は語る。同氏いわく現在の北朝鮮政権は、金正日(キム・ジョンイル、Kim Jong-Il)総書記の後継者として三男、金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)氏を支える方針で安定している。

 自らの健康にかげりが見えている金総書記は、今回の砲撃のような挑発的行為を「北朝鮮の指導層および国民の間に、新指導者への信頼を確立させる手段」とみており、今後もさらに同様の事態が懸念されるとベック氏は言う。

 また同氏によると、ウィキリークスが暴露した文書からは、韓国と米国の外交筋の希望的観測もうかがえると言う。「中国の若い指導者層は北朝鮮にいらついているが、上層部は今後も支えていく決意だ。中国が緩衝国として北朝鮮を存続させたがっていることは明白で、したがって再統一の展望は遠い」と語る。

 韓国・仁済大学校(Inje University)のKim Yeon-Chul教授も、金総書記の死後、北朝鮮内に権力闘争が起きる可能性はほとんどないと見る。「北朝鮮のエリート層は現在の政権と運命を分かち合っており、権力移譲と後継体制はすでに着々と固まっている」からだ。

■いつでも崩壊しうる金体制

 しかし、韓国統一研究院(Korea Institute for National Unification)の鄭永泰(チョン・ヨンテ、Jeung Young-Tae)氏は、延坪島砲撃で北朝鮮は自らの度を越し、行き過ぎたと指摘する。

 延坪島砲撃について鄭氏とベック氏はともに、金総書記が父親の故金日成(キム・イルソン、Kim Il-Sung)氏から権力を引き継ぐ前の動きと類似する点を見出している。しかし1980年代、90年代以降、世界情勢は変わったと鄭氏は述べる。

 米国はもはや急いで交渉の席に戻ろうとはしていないし、韓国の保守的な現政権は今回の砲撃をきっかけに、北朝鮮に対する強硬姿勢をますます強めている。鄭氏いわく「こうした状況下で、金政権が大きな困難に直面する可能性は十分にある。例えば飢餓にあえぐ国民の統制がきかなくなるとか、政治エリート内の権力闘争がエスカレートするとかだ。(延坪島砲撃といった)リスクの高いギャンブルが、ブーメランのように政権への打撃となって返ってくる可能性もある」

 テンプル大学(Temple University)日本校現代アジア研究所のロバート・デュジャリック(Robert Dujarric)所長も、北朝鮮の今後は予測しがたいと言う。「いつでも、なんの兆候もなく崩壊しうる。そうした場合、再統一はすぐに起こるだろう」。中国政府はおそらく現状維持を望んでいるが、「金政権を守るために戦争に突入することはしないし、政権崩壊を防ぐために(北朝鮮に)侵入することもしない。そういう意味で、様々な出来事に対する中国の影響力には限界がある」と言う。

■近い将来の再統一望まぬ韓国

 8月、韓国の李明博(イ・ミョンバク、Lee Myung-Bak)大統領は、南北統一にかかる費用をまかなうための数千兆ウォンの「統一税」提案を含む長期的な南北統一構想を示した。しかし、それだけの巨額を投じ、また社会的大変動を乗り越えて本当に再統一を果たしたいのかどうか、専門家らは韓国の真意に疑問を抱いている。デュジャリック氏は、韓国政府は「少なくとも(再統一に至る)数十年間の移行期間は、脅威的でない(北朝鮮)政権を望んでいる」と言う。

 またベック氏は、経済的にも、政治的にも、社会的にも、韓国には早期の再統一に向けた準備はできていないと語る。「今すぐ再統一することは誰も望んでいないし、大混乱と大出費が強いられる再統一を望んでいる者はいない」(c)AFP/Simon Martin