【11月23日 AFP】パキスタン北西部でイスラム原理主義組織タリバン(Taliban)の脅威が高まる中、世界遺産でもある古代王国ガンダーラ(Gandhara)の遺跡がタリバンに破壊されていると、考古学者らが警告している。

 首都イスラマバード(Islamabad)から20キロ、パキスタンにおける仏教の歴史の中心地タキシラ(Taxila)にあるタキシラ博物館のアブドゥル・ナシル・カーン館長はAFPの取材に、「タキシラですら安全とはいえなくなった。地元政府には博物館をねらった(タリバンの)攻撃があるかもしれないと警告された。警備体制は強化したけれど、資金が足りず十分とはいえない」と話した。

 タキシラ博物館はパキスタンでも有数の考古学コレクションを誇る。しかし、もう何週間も来館者はいないとカーン館長。「来館者がなく、博物館が保護されず、研究が止まってしまったら、考古学の未来はどうなってしまうだろうか」と嘆く。

 タリバンは音楽、美術、舞踊、女子教育、偶像崇拝を否定しており、2001年3月にはアフガニスタンのバーミヤン(Bamiyan)遺跡の石仏を爆破した。以来、考古学者はパキスタンの仏教遺跡もタリバンの標的となると懸念。2008年9月には、北西辺境州のスワト渓谷(Swat Valley)で7世紀の仏像が、タリバンによって2回にわたって爆破、破壊された。

 スワト渓谷では、1956年からイタリアの考古学チームが発掘を続けていたが、タリバン勢力を率いるイスラム教の強硬指指導者マウラナ・ファズルラ(Maulana Fazlullah)師がシャリア(イスラム法)強化運動を進めたため、2007年に活動を中止した。再開の見込みは立っていない。

 08年までスワト地区の中心都市ミンゴラ(Mingora)の博物館で17年間、館長を務めていたカーン館長も、タリバンの脅威を感じ、博物館を閉鎖、ほとんどの収蔵品を避難させた。博物館は今、パキスタン軍が接収して使っており、爆弾などで大きな被害が出ているという。「考古学にとって最悪の時だ。かつてこの地では15~20チームの海外の考古学者らが発掘を行っていたが、今はすべての研究が止まってしまっている」とカーン館長は語った。

 博物館に対する脅威は、やはり仏教遺跡で有名なペシャワル(Peshawar)でも高まっており、博物館の入り口にバリケードを作ったり入場規制をかけるなど、警備体制が強化されている。外国人観光客の足も1年以上途絶えているという。(c)AFP/Sajjad Tarakzai