【11月8日 AFP】米テキサス(Texas)州の陸軍基地フォートフッド(Fort Hood)で5日、精神科医のニダル・マリク・ハサン(Nidal Malik Hasan)少佐が銃を乱射し、13人が死亡した事件について、市民団体関係者らは、ハサン容疑者が「いつ爆発してもおかしくない時限爆弾」のような状態だったと語った。

 イラクへの従軍を拒否したMatthis Chiroux元軍医は、このような事件について、「いろいろな場所で起きる可能性が十分ある。PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した帰還兵ならば同じことをしかねないからだ」と語った。

 イラク、アフガニスタン両戦争に従軍した米兵1600万人以上のうち、約20%がPTSDを発症しているという。にもかかわらず、米軍が帰還兵とその家族に適切な治療を提供していないとして、米軍に対する批判が高まっている。

 また、精神科医のハサン容疑者に治療が必要だったことに軍は気づくべきだったとの批判もでている。ハサン容疑者は、ワシントンD.C.(Washington D.C.)のウォルターリード陸軍病院(Walter Reed Army Medical Center)で検査を受け、「悪い状態」との評価を受けていたという。

 退役米兵のアン・ライト(Ann Wright)元陸軍大佐は、AFPに対し、「患者の1人は、精神科医(のハサン容疑者)も自分と同じくらい悪い状態に見えたと述べている」と語った。  2003年の米軍イラク進攻に抗議して辞任したライト氏は、ハサン容疑者の「精神が崩壊」した理由について、このような推測を語った。「到着したフォートフッドでこれから派遣される若者たちを見て、これまでウォルターリード陸軍病院でみてきた、帰還してきた若者たちの様子と対比してしまったのかもしれない」

 ハサン容疑者はウォルターリード陸軍病院で精神科医として勤務していたが、今年に入ってフォートフッド基地に転属となり、今後はアフガニスタンに派遣される予定だった。

 ハサン容疑者の家族によれば、同容疑者はくり返し除隊を希望していた。また、アフガニスタンで同胞のイスラム教徒と戦うことが嫌だったとも伝えられている。 「Center on Conscience and War」のカウンセリングコーディネーター、ビル・ギャルビン(Bill Galvin)氏は、「最近の軍隊は極度の人手不足のため、海外派遣が不可能などころか、除隊しなければならないような病状を持った人たちまで海外に派遣されている」と語る。

 ギャルビン氏は、良心的兵役拒否者として除隊を希望すれば、医師であるハサン容疑者のような立場の人物の除隊は許可されやすかったものの、ハサン容疑者の場合は軍が学費を支給したため、除隊は難しかっただろうと語った。「軍が、教育や訓練にたくさんの資金をつぎこんだ場合、除隊は難しくなる」という。

 ライト氏によると、米軍入隊者は大学の学費を肩代わりしてもらえるだけでなく、入隊するだけで最大2万ドル(約180万円)を受け取っているという。

 現在は反戦活動家となったChiroux元軍医は、「ある時、イラクに3回派遣された若者と話した」と語った。 「その若者は背中全体に怪我を負っており、まもなく退役するころだった」という。しかし、そこに軍が兵役を延長し、アフガニスタンへの派遣を命じた。 「若者は完全に自我が崩壊したような状態だった。『今から外へ行ってみんな撃ち殺してやる』と言っていた」

 現役米軍兵士で、「戦争に反対するイラク退役軍人(Iraq Veterans Against the War)」に活動家として参加するセレナ・コッパ(Selena Coppa)氏は、「(軍は)メンタルヘルスを非常に重要な優先事項として考えるべきだ」と語った。(c)AFP/Karin Zeitvogel