【4月19日 AFP】ソマリア沖で海賊を拘束することは、もしかしたら海賊問題で最も簡単な部分なのかもしれない。というのも、各国の海軍はこれまでに数十人に上る海賊を拘束したが、その後に続く法的手段が整備されていないのだ。さらに、人権侵害の懸念も浮上している。

 2007年末にインド洋(Indian Ocean)やケニア沖のアデン湾(Gulf of Aden)で海賊行為が多発するようになって以降、同海域に次々と派遣された外国軍艦隊は多数の海賊を拘束し、世界貿易の脅威となる海賊行為を抑え込もうとしてきた。

 すでに、フランス海軍だけで海賊とみられる71人を拘束した。そのうち、裁判のためにフランスへ移送されたのはフランス船舶の乗っ取りに関与した15人だけで、残りの多くは海賊の主要な拠点となっているソマリア北部プントランド(Puntland)当局に引き渡された。

 また、救命ボート上で人質にとられた米国人船長を救出するため米海軍部隊が前週行った作戦では、海賊3人が射殺され、1人が拘束された。拘束された海賊はニューヨーク(New York)で裁判を受ける。

 フランスやケニア、プントランド、オランダでも計5人の海賊が裁判を受ける。

■人権侵害の懸念

 しかし、いずれの国に移送されるにせよ、国際的な法的枠組みが不十分で容疑者らの権利が保証されていないとの批判の声も上がっている。

 また、人権侵害でたびたび非難を受けているプントランドでは、制度をゼロから練り上げる必要があるが、Abdurahman Mohamed Farole自治政府大統領は、すでに対策に取りかかっていると述べる。

 Farole大統領は、AFPに対し「海賊を裁判にかける上で必要な人員の増員と治安部隊の増員をすでに始めた。また、判事の数を増やし、彼らの賃金を上げることで、法制度の強化をする」と語った。

 一方、ソマリアの人権活動家、Abdullahi Daib氏は、各国が海賊を起訴しようとすることは的外れだという。

 Daib氏は、AFPに対し「これらの海賊は子どものようなものです。自分たちの権利を知らず、大金を手に入れている」と語る。

「無政府状態が19年続いたソマリアという国には、軍事的・法的な取り締まりではなく、支援が必要です。これらの若者は未来を持つことができず、唯一見つけることのできる仕事が海賊なのです」

■国際的な枠組みの整備へ

 海上における海賊行為や犯罪行為に対する法規定が不十分なことから、これまでに数十人の海賊が身柄を解放され自由に立ち去ったり、ソマリア沖で解放されている。

 ケニアなどの第3国への身柄引き渡しには批判が多いものの、国連薬物犯罪事務所(United Nations Office on Drugs and CrimeUNODC)のステファン・リラー(Stefan Liller)氏は、ケニアへの身柄移送などは、ただちに実行できる選択肢のうちの1つに過ぎないと説明する。

「誰もケニアに完璧な法制度があるとは考えませんが、ケニア(への身柄移送)は限られた解決方法の1つなのです。たとえば、イエメンに身柄を移送しようとは誰も考えないでしょう。イエメンでは、海賊行為に対する処罰が磔(はりつけ)ですから」

 リラー氏は、「海賊特別法廷の設置などさまざまな案が浮上しています。誰もが、最善の案は何か考えあぐねているのです」と語った。(c)AFP/Jean-Marc Mojon