【4月15日 AFP】パキスタンのアシフ・アリ・ザルダリ(Asif Ali Zardari)大統領は14日、反政府武装勢力が拠点を置く北西辺境(North West Frontier)州の一部にイスラム法(シャリア)の導入を認める和平協定に調印した。

 今回の協定では、北西辺境州のマラカンド(Malakand)地域にシャリアの導入を認めた。同州と接する隣国アフガニスタンの旧支配勢力、イスラム原理主義組織タリバン(Taliban)の武力攻撃を終結させようという試みのひとつだが、原理主義者たちをかえって勢いづけるとの批判も大きい。

■パキスタンの「タリバン化」への水門を開けた

 人口300万人のマラカンド地域に含まれるスワト渓谷(Swat Valley)は、以前はパキスタンが誇るスキーリゾート地だったが、イスラム指導者マウラナ・ファズルラ(Maulana Fazlullah)師がタリバン同様にシャリアの強化運動を開始して以降、中央政府は周辺での支配力を失った。

 北西辺境州、そしてアフガニスタン駐留米軍との対決を支持する数千人を率いる親タリバン派の地元武装勢力指導者スーフィ・モハマド(Soofi Mohammad)師と今回、ザルダリ大統領は和平合意に調印したわけだが、この決断に対する風当たりは強い。

 レーマン・マリク(Rehman Malik)内相は、シャリア導入でスワト周辺の勢力が武装解除し、事態が収拾に向かうことを期待するが、「パキスタンの「タリバン化」を進める『水門』を開けてしまった」というのが批判派の反論だ。

■これから表面化するシャリアの影響

 モハマド師の広報担当は「タリバンは武装解除し始めた。まだの者もじきに解除するはずだ」と述べているが、在スワトのタリバン広報担当ムスリム・カーン(Muslim Khan)氏は「イスラム法が施行されれば、もはや発砲する必要はないだろう」と武装放棄が決して無条件ではないことを示唆している。

 4月初旬には、スワトでベールをかぶった女性が公衆の面前でむち打ちの刑に処されるビデオ映像が明るみに出て、シャリア導入への批判はいっそう高まったが、カーン氏は「女性は仕事にも市場にも行くことは許されない。彼女たちを見せ物にしたくないからだ」と述べ、学校でも「イスラムの教えに即した」授業を行うと強調した。

 司法面では、控訴は連邦の裁判制度で審理されるが、スワトでは3月からイスラム法廷が開廷した。

 イスラム原理主義勢力の弾圧を国際社会から強く迫られる中、パキスタン政府は反政府勢力との交渉こそが和平への道だと粘ってきた。2001年の米軍によるアフガニスタン攻撃で、タリバンと国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)が潜伏を始めて以来、北西辺境州はパキスタンの火種となってきた。

 親タリバンを掲げる武装勢力と政府の過去の和平交渉も、08年5月のスワトの協定のように即座に破綻してきた。

 イスラマバード(Islamabad)の持続可能開発政策研究所(Sustainable Development Policy InstituteSDPI)の専門家A.H. ネイヤー(A.H. Nayyar)氏は、前述の「タリバン化の水門」について警告する。

「(シャリア導入により)今後数か月で州全体がタリバンの手に落ちると予測する。タリバンはほかの州にも圧力をかけるだろう。そうすればパキスタンは『暗黒の時代』に舞い戻ってしまう」(c)AFP/Nasir Jaffry