【10月9日 AFP】米国防総省は9月30日に議会に提出したイラク情勢に関する四半期報告書の中で、治安は最近改善しているものの、状況は「もろく、元に戻りやすく、一様でなく」、さらにイラクは現在も「権力と資源をめぐる集団間の闘争」にはまっていると分析した。

 前年同期に比べ、イラクでの暴力はマイナス77%と激減したと報告された。米軍増派部隊の撤退以降も、減少傾向は続いているという。今回の報告が扱った3か月の間に、首都バグダッド(Baghdad)で起きた宗派間抗争による死者は過去最低の29人。前年同期には1200人以上、2006年12月には1か月だけで1600人以上だった数字だ。また道路脇に仕掛けた爆弾を使った攻撃は、3月末から5月中旬にかけては急増したが、現在は3月以前の件数まで減ったという。

 しかし、報告は、未解決の諸問題によって治安の改善傾向は逆戻りする可能性もあると警告している。

■地方選や民兵組織処理に見える宗派間の確執

 情勢安定化の障害となりうるのは、来る地方選挙や、スンニ派民兵勢力「イラクの息子たち」(別名「覚醒評議会」、SoI)の政府治安維持軍への統合、原油産出地帯にあるキルクーク(Kirkuk)の位置付け、シーア派原理主義グループへのイラン政府の支援などだ。

「治安情勢は劇的に改善したが、イラクの衝突の根本的性格に変化はない。権力と資源をめぐる集団間の闘争だ」と報告は指摘する。

 地方選挙を控える過程では、シーア派主導の政府にスンニ派が疎外されていると感じた場合、反政府的な攻撃が増加するおそれがあるという。

 また、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)掃討作戦に合流したスンニ派民兵勢力「イラクの息子たち」を、政府の治安部隊や文官職に再統合しようとすることは「極めて大きな課題」とされる。「SoI全体に永久雇用を保証することが求められているが、移行のペースは遅く懸念材料」である上、最近イラク政府がディヤラ(Diyala)州内でSoI幹部を標的にしているという疑惑が本当であれば、政府がSoI統合や多様な民族で構成される同州の和解自体に後ろ向きだという表れだと分析する。

 SoIの戦闘員9万8000人にこれまで給与を支払ってきたのは米軍だ。しかし、ヌーリ・マリキ(Nuri al-Maliki)首相率いるイラク政府は10月1日から、政府の支給対象をそのうちの5万4000人へと絞る予定だ。

■イランの隠密関与、アルカイダやサドル師組織のくすぶりなども懸念

 報告書ではまた「イラクの長期安定化に対する最大の脅威」としてイランの影響を挙げている。イラン側の度重なる否定とは異なり「イラク情勢の不安定化を狙い゛特別なグループ(SG)”と呼ばれる集団に、イランが資金や武器を供与し、指示を与えているのは明白だ」と断言する。イラン政府によるシーア派原理主義者グループへの支援が、イラクにおける暴力の原理であり続けているという主張だ。

 一方では、シーア派指導者ムクタダ・サドル(Moqtada al-Sadr)師の民兵組織マフディ軍(Mahdi Army)による攻撃は激減した。理由については「民兵組織の暴力や犯罪行為に対するイラク国民の不満が膨れあがっていた。さらに(マフディ軍は)大きな打撃を受け、連合軍や国際支援部隊(ISF)の戦術的優位性を認知したことから、戦闘員の大半が武器を置き、指導者の多くはイランへ逃亡した」ためと分析した。

 イラク国内のアルカイダ勢力については、米イラク合同軍の作戦の結果、こちらも甚大な打撃を受けたが、依然「限定された範囲ながら、都市部で目立つ攻撃や、地方部でも一定自由な動きができる状態」だという。しかし、イラク国内の宗派間抗争を再燃させるアルカイダの試みは成功していないという。(c)AFP/Jim Mannion