【10月6日 AFP】マイク・フェイ(Mike Fay)米海兵隊准尉は、イラクでパトロールの任務に就くとき、M-16ライフル、9ミリ口径のピストルのほかに、スケッチブックと水彩絵の具、カメラを携えるのが常だった。

 このフェイ准尉ら海兵隊員・海軍兵4人の「従軍画家」の作品展「Afghanistan and Iraq: Combat Art(アフガニスタンとイラク:戦争アート)」が、2月28日まで、ワシントン海軍博物館で開催されている。

 アフガニスタンとイラクの戦闘地をそれぞれ2巡したというフェイ准尉は、「銃撃戦が発生した時には応戦をしつつ、写真撮影を行う」と言う。これらの写真をもとに、画家たちはより大きくて手の込んだ絵画作品を完成させたのだ。

 その1つが、ファイ准尉の『Two hands(2本の手)』(グワッシュ)という作品だ。ある日の朝、米軍がイラク中部のヒラー(Hillah)付近の村を攻撃したあとで撮影した写真をもとにしている。当初、主題は、その写真に写っている、2人の男(アラビア語の通訳をする海兵隊員と、隊員と身振りを交えて会話するイラク人)に置かれたが、タイトルは別の視点からとられた。同じ写真に写った、2人のやりとりを見つめる海兵隊員の右手は、ライフルの引き金に置かれている。そして、左の方にたたずむ年配のイラク人の右手は、数珠をまさぐっている。これら「2本の手」の位置と角度は、偶然、全くといっていいほど同じだった。

「写真は、絵に仕上げる段階で独自の生を受ける。描いたあとでこれら2本の手の偶然に気付き、それにちなんだタイトルを付けた」とフェイ准尉。「展示される戦争アートは、イラクとアフガニスタンの戦争を特徴付けてもいる、暴力と平和の間の絶え間ない流れとよどみを表現したものだ」 

■何気ないワンシーンに詩的な要素

 戦争アートは、戦闘の一種の記録として、昔から存在しているが、現在の従軍画家たちは戦争の奥に潜むものまであぶり出す。

 出品者の1人であるクリストファー・バトル(Kristopher Battles)軍曹は、「海兵隊にとって人間性が何を意味するかを描くよう努めている」と語る。

 描かれるのは、別離の悲しみ、負傷兵のプライド、前線基地の朝礼の様子などだ。「朝礼の合図がかかると、足をひきずる音が聞こえ、ほこりが舞い上がり、武器を装着する兵士たちの姿が見える。彼らはぼんやりとした顔で、自分の考えに浸っている。時間そのものが止まってしまったかのような印象を受ける。われわれは画家として、そうした場面に詩的な要素を加えている」

 絵は荒削りで、つや出しなどの加工も行われない。絵に汗や汚れが付着していても構わない。それは戦闘の証しとなるからだ。「われわれは、ごまかさないように描いている。制作しているのはアート作品であると同時に戦争の遺物でもあるのだから」とファイ准尉は語った。(c)AFP/Karin Zeitvogel