【10月1日 AFP】核爆弾搭載可能の爆撃機が駐機する、ロシア南部のエンゲルス(Engels)空軍基地には、ソ連時代の「栄光の日々」が戻りつつある。兵士たちにとって、米国はもはや眼中にはない。指令があれば、ただちに世界のどこへでも赴く準備ができている。

 8月、グルジア紛争が勃発する前に、ボルガ川(Volga river)沿いのこの基地に外国メディアが招かれた。冷戦時代には「最高機密」とされてきたこの基地の取材が許可されるのは、異例のことだ。滑走路には、戦略爆撃機Tu-160およびTu-95が20機以上並んでいる。Tu-160は、コンコルドのような流線型をしていることから「白鳥」の異名を持つ。Tu-95は冷戦時代、NATO軍の間で「ベア」の呼称で知られていた。

 ロシアは今月、原子力巡洋艦や爆撃機を冷戦以来初めてカリブ海に派遣し、ベネズエラとの合同軍事訓練を行っている。米国への挑発行為とも受け止められている。

 ソ連時代のインフラとハイテク機器が混在するこの基地のカフェテリアで、インタビューに応じたパイロットのOleg Mikhailishchinさんは「古き良き時代が戻ってきた」と話す。カフェテリア内は、ソ連時代の赤い紋章で埋め尽くされている。

 ロシア空軍は2007年8月、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領(当時)の命を受け、戦略爆撃機の長距離偵察を15年ぶりに再開した。ロシアが全世界に「新たな自信」を見せつけるかのような偵察飛行は、西側諸国の間に動揺を与えている。

■プライドを取り戻す空軍兵士たち

 しかし、ここエンゲルス基地では、ソ連の崩壊とともに失われたプライドが取り戻されようとしている。

「状況は良くなりつつある」と語るのは、Alexander Khaberov中佐(36)。Tu-160で北大西洋の12時間の偵察飛行を終えてきたばかりだ。飛行中、英国とノルウェーの空軍機のスクランブル発進を受けた。

 Tu-95での訓練に向かうGennady Stekachyov飛行指揮官(39)は、「必要とされていると感じるのは、すばらしいことだ」と話す。

 1950年代に開発されたTu-95は、1961年にソ連北部のノヴァヤゼムリャ(Novaya Zemlya)島上空で史上最大の水爆実験を行った。Tu-160は1980年代に製造が開始された。

 米国が東欧にミサイル防衛システムを配備するのに対抗して、ロシアはTu-95やTu-160をキューバに配備する予定だと報道されていることについて質問すると、Stekachyov飛行指揮官は「キューバに行けと言われたら、行くだろう。国益にかなうことはすべて正しい」と答えた。

 飛行指揮官は「すばらしかったあの時代をこの基地で過ごした。それから低迷期に突入した」と話すと、ボリス・エリツィン(Boris Yeltsin)大統領(当時)が1990年代に米大統領と締結した軍縮条約に思いを巡らし、顔をくもらせた。この条約のもとでエンゲルス基地は縮小されたのだ。将校や元パイロットは、「栄光を米国人に持っていかれた」「われわれは屈服した。ソ連の全国民にとって心が痛む選択だった」と口をそろえる。

 米国との軍縮条約が辛い思い出だっただけに、長距離偵察の再開を命じたプーチン現首相はロシア人の目には「英雄」に映る。プーチン氏は、2005年には自らTu-160を操縦し、称賛を受けた。

■偵察飛行は「善意のしるし」

 Dmitry Kostyunin副司令官は、長距離偵察の再開は「力の誇示ではなく、世界の融和を目指したもの」だと強調した。スクランブル発進を受けたとしても、ロシアのパイロットは仲間意識のようなものを感じるという。「スクランブルをかけた側も、幸せな気分なんじゃないかな。若いパイロットたちはロシア軍機を見ることができるし、ロシア軍機がいかに美しいかを知ることもできる」

 だが、こうしたコメントは、西側諸国から寄せられる数多くの不満とは矛盾している。2月には日本の領空を侵犯したとして、外務省は直ちにロシア大使館に厳重抗議した。

 冷戦時代に長距離爆撃機のパイロットをやっていたというKostyunin副司令官は、「(偵察飛行は)力のシンボルであると同時に、善意のシンボルでもある。われわれのことを知れば知るほど、あなた方はわれわれを愛し、そして尊敬することになるだろう」と話した。(c)AFP/Dario Thuburn