【8月15日 AFP】今回のグルジアとロシアの武力衝突について、旧ソ連崩壊後に独立した各国の指導者たちは、第2次世界大戦前夜と酷似した状況であるととらえ、欧米諸国に危機感を持つ必要があると警鐘を鳴らしている。

 旧ソビエト連邦を構成していたグルジアの同盟国たちは、ロシアに対する言論戦の中で得意とする論旨を今回も持ち出している。「過去」に根ざす警戒だ。

 エストニアのトーマス・ヘンドリック・イルベス(Toomas Hendrik Ilves)大統領は13日、ロシアと衝突するグルジアを欧米は見捨てることがあってはならない、1930年代の繰り返しになると恐れがあると強く警告した。

 訪問先のポーランドでイルベス大統領は「1938年、ミュンヘン(Munich)から戻った(英国の)ネヴィル・チェンバレン(Neville Chamberlain)首相は、割譲されたばかりのチェコスロバキアについて『われわれが何も知らない、遠くの小さな国だ』と語った。その結果は皆が知る通りだ。自由と民主主義を尊重する国々は、それが脅かされた時にはいつでも立ち上がらなければならない」と報道陣に述べた。

■旧ソ連諸国、ロシアとナチスを重ねて非難

 第2次世界大戦前夜、当時のチェンバレン英首相は、領土拡大を押し進めたいアドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)との瀬戸際外交の最前線に立っていた。戦争回避を目的とするつもりで1938年、ミュンヘン会談(Munich Conference)で譲歩し、チェコスロバキアの戦略的重点地域だったズデーテン(Sudetenland)地方のナチス・ドイツによる占領を認める条約に調印したが、その際、同地方の人口の大半がドイツ系住民だったことが正当化の根拠とされた。

 しかし、この譲歩がヒトラーの欲望を満たすことはなかった。ドイツナチスは翌39年、ポーランドに侵攻し第2次世界大戦が勃発した。

 エストニアなどの旧ソ連諸国にとって、グルジア内の親ロシア地域である2つの自治州に対するロシアによる軍事支援は1938年のこの一連の流れを連想させる。リトアニアのワルダス・アダムクス(Valdas Adamkus)大統領は12日、「われわれは国際社会がヒトラーに譲歩したミュンヘンの再現を許してはならない」と述べた。

 グルジアの友好国であるバルト3国(エストニア、リトアニア、ラトビア)は第2次大戦中、東欧を分割しようとしたソ連とナチス・ドイツの交渉が決裂した後、ソ連に占領された。戦時中の1941-44年はナチス・ドイツに占領され、ソ連の赤軍の進攻によってドイツ軍が放逐されると再びソ連に占領された。
 
 バルト3国もグルジア同様、旧共産圏の崩壊に伴いようやく1991年に独立したが、現在もロシアと過去をめぐる確執がある。これらの国がよくナチスとソ連の抑圧を同一視する一方で、ロシア側はそうした批判はナチス時代を懐かしみ、粉飾する行為で、赤軍は解放者だったと反論するのが常だ。

 2004年に北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty OrganisationNATO)と欧州連合(EU)に加盟したバルト3国は現在、西側寄りの立場をとっており、グルジア問題をめぐっては西側の同盟国に対しロシアに強硬的な姿勢とるよう圧力をかけている。

■ロシアはグルジアから独立目指す地域との関係を強化

 前週発生したグルジア軍とロシア軍の戦闘は、グルジア側が90年代に自治州となった南オセチア(South Ossetia)を中央政府の統制下に再び置こうと進軍させたことに端を発した。ロシア軍はこれまでにグルジア軍を南オセチア、さらに同じく独立を主張する地域であるアブハジア(Abkhazia)自治共和国から放逐した。一方、これら2地域において、反政府勢力とグルジア軍の対立を監視するためとして駐留していたロシアの平和維持軍は中立的ではないとして、グルジアは長年非難してきた。

 ロシア側は今年に入り、南オセチアおよびアブハジアとの関係を強化していた。すでに両地域の住民のロシア国籍を認めており、グルジアへの攻撃についても「自国民の保護」を根拠にしうる状態だ。 

 和平仲介しているEU議長国のフランスのニコラ・サルコジ(Nicolas Sarkozy)大統領は12日、グルジア領の一体性は尊重されなければならないと述べながらも、ロシアが境界を越えて「ロシア語を話す住民」を防衛することは「普通のこと」だと発言した。

 しかし、こうした見解はバルト3国には受け入れられない。

 サルコジ大統領の言質に特に揺れたのは、国民の約三分の一をロシア語話者が占めるエストニアとラトビアだ。エストニアのウルマス・パエト(Urmas Paet)外相は9日、「ロシア系住民の防衛の必要性によって軍事侵攻が正当化されているとすれば、領土内にロシア系住民を抱えるすべての国にとって憂慮すべき事態だ」と大きく懸念した。

 こうした懸念は旧共産圏以外にも広がっている。スウェーデンのカール・ビルト(Carl Bildt)外相も9日、「単に自国が発行した旅券を持っている個人や自国民がいるからといって、他国の領土に対し軍事侵攻する権利はいかなる国にもない」と述べた。「そのような外交政策を採用したからこそ、欧州は過去、戦争に陥ったのだ。ヒトラーがわずか半世紀ほど前に、中央ヨーロッパの広範囲を攻撃し、弱体化させるために用いたのは、まさしくこのドクトリンそのものだった。我々にはこのことを思い起こすだけの理由がある」(c)AFP/Jonathan Fowler