【4月14日 AFP】イラク戦争を正当化する米政府の論拠は、故サダム・フセイン(Saddam Hussein)政権打倒に始まり、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)の掃討へと移行し、ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)大統領が目下、声高に叫ぶのはイランの「脅威」との戦いだ。

 大統領は前週、駐留米軍を敵視するイラクの武装勢力をイラン政府が支援し、またイランが秘密裏に核兵器開発を追求しているという従来の見解を繰り返し「イラクは、米国にとって今世紀最も大きな二つの脅威の合流点だ。すなわちアルカイダとイランだ」と述べた。「アルカイダとイランが投資をつぎ込むイラクで、われわれが最終的成功を収めれば、国際テロ活動に対する決定的な打撃となり、イランには手痛い敗北となるだろう」

■イラン支援を受ける「特別組織」を米軍は強調

 フセイン大統領が処刑され、アルカイダの勢力が減退するにつれ、駐イラク米軍兵力の現状を維持する理由として挙げられるようになってきたのが、イランの資金援助を受けるイラクの原理主義勢力の存在だ。デービッド・ペトレアス(David Petraeus)駐イラク米軍司令官はこうした勢力を「特別組織」と呼ぶ。

 ペトレアス司令官は前週、議会で以後数か月にわたるイラク戦略を説明した際、「野放し状態にある『特殊グループ』は、イラクの民主制の存続に対し、長期的な脅威となっている」と強調した。

■観測筋が懸念する戦略のブラックホール化 

 しかし、この「脅威」への米国の対処法は正確なところ不明なままで、任期満了まで残り9か月しかないブッシュ大統領が何を決断するかに大きく左右される。大統領はABCニュースのインタビューに対し、イランを攻撃するつもりは一切ないと述べた一方で、米国の国益を守る上で、武力行使全般を選択肢から除外することはないと明言した。

「イランへのメッセージはこうだ。『駐留米軍あるいはイラク市民、またはその両方に危害をもたらすために、イランが潜入や工作員派遣の試みを続ければ、われわれは彼らに裁きをもたらすだろう』」

 この「裁き」とは何を意味するかと問われたブッシュ大統領は、「拘束や殺害、それが裁きという意味だろう」と切り返した。

 ロバート・ゲーツ(Robert Gates)米国防長官は13日、米国がイランの動きを懸念している点は認めたが、イラクでの「小競り合い」が元でイランとの衝突に巻き込まれる可能性は「極めて低い」と述べた。

 米シンクタンク・ブルッキングス研究所(Brookings Institution)のイラン専門家、スザンヌ・マロニー(Suzanne Maloney)氏は「ブッシュ政権の壊滅的な政策が、イラク国内の宗派間対立を招き、イランの強硬派を勢いづける一助となった」と指摘する。

「地域安定の新世紀と米国の優位性を築くためにペルシャ湾(Persian Gulf)に降ろされた『いかり』の役割が期待されていたフセイン後のイラクは、実際には対処法が効かない戦略のブラックホールとなっている。米国の軍事リソースや政治的影響力が流出する一方で、周辺国に対するイランの優位性は拡大を続けている」(c)AFP/Laurent Lozano