【3月4日 AFP】英国の情報機関が第2次世界大戦中にハンガリー人の占星術師を雇っていたことが、同機関が4日に公開した文書により明らかになった。

■その信頼性は?

「現代のノストラダムス」を自称するルイズ・デ・ウォール(Louis de Wohl)氏は当時、ナチス・ドイツの転覆を図る英特殊作戦執行部(Special Operations ExecutiveSOE)で占星術師として活躍していた。

 デ・ウォール氏の存在はかねてから知られていたが、占星術師の間ではその信頼性に疑問が持たれていた。今回公開された機密文書からは、情報機関の上層部にも同氏に対する不信感があったことがうかがえる。
 
 たとえばMI6は、「アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)は占星術に傾倒している。打倒ヒトラーにはその点を利用するのが一番」と主張したデ・ウォール氏について、「当局の高官の1人は、あのような危険なペテン師を雇うとは信じがたいと述べている」とのコメントを残している。

 同様にMI5も、陸軍大尉の地位を手に入れたデ・ウォール氏を「怪しいとまでは言わないまでも、なぞに包まれた経歴を持つ闖入(ちんにゅう)者」と評し、「その予言のどれ1つとして現実のものにはならなかった。唯一の例外はイタリアの参戦だが、それもデ・ウォール氏が予言した当時にはすでに明白な事実となりつつあった」としている。

 MI5のデ・ウォール問題担当者はさらに、情報機関内で同氏の助言がまじめに受け止められていた事実についても、「この種のエセ科学はどれもきわめてたちが悪い。だから危険なのだ。容易に物事を信じない、固い信念の持ち主でないと、間違った考え方を植えつけられてしまう恐れがある」と述べて懸念を示している。特にSOEのチャールズ・ハンブロ(Charles Hambro)部長はその助言を頼りにしていたという。

■かつては三文小説家だった

 両親ともハンガリー人のデ・ウォール氏は1903年、ドイツのベルリン(Berlin)に生まれた。本名はLajos Mucsinyi Wohl。三文小説を書いて生計を立てていたが、1935年、ナチスによるユダヤ人迫害が激化する前に英国に移住した。

 移住後はルイズ・デ・ウォールと名を変え、ハンガリー人の貴族の末裔を自称。さらに自ら「著名占星術師」を名乗って上流社会に巧みに潜り込み、そこで政府から注目されるようになった。
 
 デ・ウォール氏を「最高の占星術師」と賞賛するSOEのハンブロ部長に宛てた当時のメモでは、ヒトラー専属の占星術師カール・エルンスト・クラフト(Karl Ernst Krafft)の予言を「追跡する」ことで、ヒトラーにどのような助言を行っているか探るべきだと提案している。

「独裁者となってからのヒトラーは、『星位がよい』時期に大きな動きを見せている。『天性の直感』と思われていたものは、実は占星術の知識に頼っているにすぎないのだ。当然ながら、星位が悪いときにはヒトラーも弱腰になっているはずなので、その時期に攻撃をしかければこちらに有利となるだろう」(ハンブロ部長に宛てたデ・ウォール氏のメモ)

 MI5の歴史をまとめているケンブリッジ大学(University of Cambridge)のクリストファー・アンドリュー(Christopher Andrew)教授は、ハンブロ部長や英国最大の情報機関である合同情報委員会(Joint Intelligence CommitteeJIC)がデ・ウォール氏を信用したのは誤りだったと指摘する。

「ヒトラーは占星術をまったく無意味なものと考えていた。にもかかわらず英国政府は、ヒトラーが占星術にこだわっていたとの誤った認識を抱いていた。合同情報委員会にとって、ヒトラーには理解しがたい部分があった。行動の予測がつかなかった。そこで英政府は、ヒトラーが占星術師の助言を聞いていたと考えるにいたったわけだが、それは100%勘違いだったのだ」(c)AFP/Loic Vennin