【1月27日 AFP】モロッコ生まれの若者Hamza Abu Hamda Ayacheさんは、19歳になった時には自分の進む道を決めていた。彼は短く終わる生き方を選んでいた。イラクで「殉教者」として死ぬ人生だ。

 国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)の世話人に案内され、Ayacheさんは2006年11月10日にイラク入りしている。入国後、国境地点に所持金約75ドルと旅券、身につけていた腕時計、そしてモロッコのテトゥアン(Tetuan)の村に残してきた両親の電話番号を置き去りに、その後の行方は分からない。

 しかし米軍によると、国境をすり抜けてイラク入りした外国人の大半が自爆犯、つまり「殉教者」として生涯を終えているという。

■アルカイダ関連人物600人の入国記録「シンジャル・リスト」

 米軍は最近、アルカイダの工作員とみなしている人物600人以上のプロフィールを記した人物ファイルを公開した。2006年8月から2007年8月の1年の間にシリアからイラクに入国した人物たちだ。

 このリストはバグダッド(Baghdad)の北約350キロのイラク北部、シリア国境に近いシンジャル(Sinjar)で2007年9月、聖戦を掲げる集団に対する掃討作戦の際、コンピュータの上に置かれていたものを発見し、押収したという。

 ファイルの表紙にはアルカイダのロゴマークが刻印されており、前述のAyache青年のような人物たちの経歴や出身国、旅券の写真、時には住所や電話番号といった個人情報が記録されていた。中には、集められた「聖戦の戦士」たちが国境を越えてイラクへ入国する際に現金や時計、携帯電話、MP3プレーヤーといったアルカイダへの「土産品」を置いていったかどうかまで記されている。

 米国の軍事調査組織「Combating Terrorism Center(テロとの戦いセンター)」のウェブサイト上で公開されている同リストによると、シリアを通過してイラク入りする者の国籍で最も多くを占めるのがサウジアラビア国籍で44.1%に上るという。その他、国籍別にみるとリビアが18.8%、シリアが8.2%、イエメン8.1%、アルジェリア7.2%、モロッコ6.1%、チュニジア5.5%となっている。

 また年齢は16歳から54歳まで、職業は大学教授や看護師、警官、配管工とさまざまだが大半は学生で、全掲載人物の66.3%が自爆犯を示す「殉教者」として記されていた。

 この「シンジャル・リスト」には募集された方法や、どのようにそこにたどり着いたのかに関する情報はほとんどない。しかし、多くの者が同時にシリアに到着していることから、おそらくグループごとに移動していたと推測される。またイラクの反政府勢力に合流する人物らが同国に入国する際、主要な中継地となっているのがシリアだという確信も得られた。

■中継地点シリア当局の動向は不明

 しかし、シリア政府が何らかの役割を担っているかや、シリア当局の「共謀」が存在するかといった点を断定するのは困難だと「テロとの戦いセンター」は指摘している。また「殉教候補者」の国境越えにおいて主要な役割を果たしているのがシリア人の仲介人や密輸業者であることから、犯罪者集団によってネットワークが運営されている可能性もあるという。同センターは、シリアの情報当局が「こうした組織網への浸透を図っていないとはほとんど考えにくい」と補足している。

 米上層部は前週、シリア経由でイラクに入国する外国人の数は1年前の月100人から、現在は月40-50人まで減少したと発表した。

同センターは、「シンジャル・リスト」の内容は、イラク国内のアルカイダ勢力が2007年、外国人の「聖戦士」は200人しかいないと発表したことと明らかに矛盾すると指摘する。国境を越えてイラクに入国したと記録されている600人以上の男性の行方は、ファイル内に何も示されていない。米軍側は、掲載されている電話番号への通話を試したかどうか明らかにしていない。(c)AFP/Herve Bar