【1月4日 AFP】パキスタンのベナジル・ブット(Benazir Bhutto)元首相の暗殺事件をうけ、ペルベス・ムシャラフ(Pervez Musharraf)大統領は英国のロンドン警視庁(Scotland Yard)に捜査協力を要請した。

 しかし、これで事件の全容が明らかになると信じる国民は少ない。

 与党は前月27日に暗殺されたブット元首相の死因は銃撃と自爆攻撃によるものだと主張しているが、これは暗殺現場でほとんどの物証が爆発により破壊され残っていないため。その一方で、ブット氏の死因をめぐって、与野党間にあらたな政治対立が生まれている。

 以下は現在までに明らかになっているブット元首相暗殺の概要。

■暗殺直前

 パキスタン北部ラワルピンディ(Rawalpindi)で開かれていた野党・パキスタン人民党(Pakistan People's PartyPPP)の選挙集会に参加していたブット元首相は演説終了後、車両に乗り込んでサンルーフから顔を出し、群集に手を振っていた。

■狙撃犯

 群集の中の男が、サンルーフから顔を出していたブット元首相に向かって至近距離から拳銃を数発発砲。政府発表では発砲された弾丸は3発とされている。

■自爆テロ

 その数秒後、ブット元首相の車両から数メートルの距離にいた男が、身に着けていた起爆装置を爆発させ22人が死亡。自爆した男と狙撃犯も死亡した。

■ブット元首相の死因

 不明。政府発表によると、狙撃犯の銃弾はブット元首相には当たらず、身を守ろうとしてサンルーフから車内に身をかがめたブット氏が、車内で頭をぶつけた衝撃により死亡したとされている。

 しかし、現場に居合わせたブット元首相の側近は、元首相が頭部を撃たれるのを目撃したと証言している。PPPも元首相の死因は銃創によるものだと主張している。

■検視

 ブット元首相の親族が検視を拒否し、検死解剖は実施されていない。元首相の親族側は、検視は元首相への冒とくであるうえ、政府が検視結果を捏造(ねつぞう)する恐れがあると主張している。

 暗殺事件の数時間後にブット元首相の遺体を検査した医師は、元首相の死因は右後頭部から頭蓋骨を貫通した物質によるものだと語った。しかし、遺体からは銃弾やその破片などは見つかっていないという。

■物証

 凄惨な暗殺現場は事件後、すぐに洗浄・清掃された。

 政府発表によれば、現場からは自爆犯の頭部が発見されたが、胴体部や狙撃犯の遺体は特定できていないという。

 暗殺事件の瞬間の現場状況をとらえた写真やビデオ映像が複数ある。しかし、ブット元首相の銃撃を明確に確認できるものはない。

 内務省が公表したビデオ映像には、群集の中から自動拳銃を手にした男がブット元首相の車両の左後方に近づき発砲する様子がとらえられている。映像で確認できる発砲は2回だが、銃声は3発聞こえる。その直後、大爆発が起こり、映像は途絶える。

 このほか、英チャンネル4(Channel 4)テレビが公開した映像には、銃撃の後、ブット元首相の髪やスカーフが乱れて宙に舞う様子がとらえられている。その後、元首相の体は右方向に傾き車内に崩れ落ちた。その直後、爆発が起こった。

■真犯人

 政府は、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)のパキスタン最高幹部とみられるバイトゥッラー・メスード(Baitullah Mehsud)司令官が、電話で暗殺実行犯を讃える会話を傍受したとして、犯行はアルカイダによるものだとした。

 ブット元首相はアルカイダやイスラム過激派の撲滅を公言しており、イスラム過激派から暗殺予告を受けていた事実はある。しかし、メスード司令官の広報担当者は事件への関与を否定している。

 またブット元首相は、前年10月の同氏の帰国歓迎パレードで発生した自爆テロについて、パキスタン政府の情報機関の関与があったとして政府を非難していた。同テロでは、元首相は無事だったが巻き込まれた139人が死亡している。

 一方ムシャラフ大統領は、ブット氏暗殺に政府が関与しているとの疑惑を一貫して否定。軍情報機関による陰謀との噂についても「冗談としかとれない主張だ」と切り捨てた。

 政府は、現場写真に写っている暗殺犯とみられる男2人の写真を公開。1人は、サングラスをかけた髭のない男で、明らかに手にした拳銃をブット元首相に向けている。もう1人は、頭に白布をかぶった髭面の男で、自爆犯とみられる。

 政府では報奨金を出して、2人に関する情報提供を求めている。(c)AFP