【6月1日 AFP】不穏な情勢が続く南部で31日、治安維持部隊に対する大規模な襲撃があり、兵士11人が死亡した。過激派による1回の攻撃では過去最悪の被害となった。

■各地で犠牲者が出る襲撃事件が多発

 治安維持部隊は、イスラム教徒が多く居住するマレーシアとの国境に近いヤラ(Yala)県をトラックで移動中、過激派とみられる武装集団による奇襲攻撃を受けた。

 31日に南部で発生した襲撃事件は、治安部隊に対する大規模襲撃だけではない。ソンクラー県(Songkhla)サバヨイ地区(Saba Yoi)では、モスクで銃撃が発生。5人の若者が死亡した。

 ほかにも南部で、民間人2人と兵士1人が銃撃を受け死亡。爆弾が爆発し、兵士9人が負傷する事件も起きている。

 南部では2004年1月以降、分離独立を掲げるイスラム過激派による襲撃事件が相次いでいる。武装集団による襲撃は、治安部隊の反撃を誘い、これを南部住民に対する残虐行為として治安部隊を逆に非難することを狙ったものとみられる。

■政府と過激派の武力対立は「日々悪化している」と専門家

 陸軍報道官はこうした現状においても、「(過激派との)和解を目指す政府の方針に変更はない」としている。

 だが現実には、これまでの和平交渉は一向に成果をみせておらず、軍主導の暫定政権に対する批判の声も少なくない。2004年1月以降の襲撃事件による被害者数はすでに2200人超えており、事態は悪化の一途をたどっている。

 現在、ヤラ、ナラティワット(Narathiwat)、パタニ(Pattani)の南部3県では、銃撃や爆弾攻撃、さらには放火によって、毎日のように兵士や民間人が命を落としており、多くの地域が立ち入り禁止区域となっている。

 チュラロンコン大学(Chulalongkorn University)イスラム研究センター(Muslim Studies Center)の上級研究員は南部の現状について、「日々悪化している。過激派はこうした暴力行為を駆使することによって、政府に南部を救う手だてはないと示したいのだろう」と指摘した。

 また同大学の政治科学教授は31日の大規模な襲撃について、「過激派が力を増強させている証拠」とし、兵力で勝る政府軍に過激派が戦略と団結力で対抗する図式を指摘する。

 ヤラ、ナラティワット、パタニの南部3県は、かつては独立統治されていたが、約1世紀前にタイに併合された。以来、分離独立を掲げる過激派による社会不安が続いている。暫定政権は現在、南部3県に3万人規模の部隊を展開しているが、目立った成果が上がらないことから、さらなる兵力投入計画を検討している。(c)AFP