【6月9日 AFP】「あの審判は偏っている!」――反則やレッドカード、長いロスタイムのせいで失点を許してしまったサッカーチームの監督や選手、ファンが怒り心頭で叫ぶのを、どれほど聞いたことがあるだろうか。

 プロの審判はそんな非難攻撃に対して、誤解だ、中傷だ、負け惜しみだと反論してすばやく撃退するものだ。だが、10年以上かけて行われた複数の科学研究で、たとえ無意識だとしても、審判が大勢の観客のプレッシャーに揺れてしまう可能性があることが明らかになった。

■サポーターの歓声でホーム側のファウル判定減る

 英ウルバーハンプトン大学(University of Wolverhampton)のアラン・ネビル(Alan Nevill)教授率いる研究チームは、観衆が発する大声が審判の判定に及ぼす影響について調べた。

 研究では、資格を取得したばかりの新米審判から経験40年以上のベテランまで、さまざまなレベルの国内審判40人に、1999年に行われた英プレミアリーグのリバプール(Liverpool)対レスター・シティ(Leicester City)の試合のビデオを見せ、試合中にあった47のチャージや接触プレーについて判定してもらった。

 この時、22人はホームチームのリバプールのファンの歓声が入っているが実況は入っていないビデオを視聴し、残る18人は音声のないビデオを見た。すると、音声のないビデオを見た審判の方が自分の出した判定に確信を持ち、音声付ビデオを見た審判よりリバプールの選手の反則を多く取ったほか、反則なしと判定する傾向も高かった。

 一方、音声付きビデオを視聴した審判は、レスター・シティの反則を取る傾向が高くなることはなかったが、音なしビデオのグループと比較すると、リバプールの反則を取る率は15.5%低かった。そして、この判定は、実際にこの試合の審判が出した判定と極めて近かった。

 ネビル教授は、「歓声の有無によって劇的な効果があった」と指摘した。

■サッカー専用スタジアムほど偏り顕著に?

 ドイツ・ボン大学(University of Bonn)のトマス・ドーメン(Thomas Dohmen)博士率いる統計学者のチームは、Innovative Media Technology and Planning(IMP)社が集めた1992~2003年に行われたドイツ・ブンデスリーガ1部の3519試合のデータを分析した。IMPでは、大量の試合情報を集めるとともに審判の判定が正しかったかどうかの見解を示している。

 IMPによると、ボールがゴールラインを超えたかどうか判断が難しい場合、ゴール判定を得られる確率はホームチームの方がアウェーチームより25%高かった。ファウル判定については、正しかったとみなされたのはアウェーチームは75%、ホームチームは65%だった。

 また、サッカー専用スタジアムで試合が開催された場合、ホームチームが負けている展開の時に審判が異議を唱えられがちな判定を出し、長いロスタイムを取る傾向があるという興味深い結果が出た。「観客がピッチのすぐそばにいると、審判はより大きな社会的圧力にさらされるのだろう」とドーメン博士は話している。

■W杯の審判は「優秀」

 国際サッカー連盟(FIFA)は、W杯の審判は厳しい訓練を受けた精鋭で、公平な判定を出せると主張する。AFPの取材にEメールで寄せられた回答によれば、「審判は大勢の観衆の前に立つことに慣れており、優秀な審判を育てる訓練も長期間かけて行っている」。

「観客が5万人を超えるような大きな試合でいきなり笛を吹くようなことはないし、特にW杯では各方面の専門家からのサポートも得られる。焦点となるのは精神面での準備だが、審判たちは大きな試合で直面し得るさまざまなシナリオに対して備えている」

■背の高い選手ほど標的に――犯人は「人間の本能」

 しかし、ここに問題がある。審判は、人間の本能的行動を回避できるのか、ということだ。

 オランダ・エラスムス大学(Erasmus University)の研究チームは今年、欧州チャンピオンズリーグ(UEFA Champions League)、ドイツ・ブンデスリーガの7シーズン、過去3回のサッカーW杯(World Cup)で取られた計12万3884回の反則についてデータを分析した。

 その結果、判定の難しいファウル行為の場合、背の高い選手のほうがファウルをしたと判断され、小柄な選手が被害者とみなされる傾向が高いことが分かった。これは、実際にはファウル行為がなかった場合にも同様だった。

 この発見は、背の高い人ほど攻撃性や支配力があると考えられやすいという進化論的研究と一致する。(c)AFP/Richard Ingham