【6月25日 AFP】国境警備隊2万人の増員、数百キロに及ぶフェンス、無人偵察機やレーダー、センサーに数十億ドルを投入──メキシコからの不法移民流入を食い止めようと、米議会では軍事的な対抗手段が提案されている。

 米上院は24日、画期的な移民制度改革法案の中で最も重要な修正案を承認したが、治安悪化に対する共和党の懸念を和らげることを意図したこの修正案は、米・メキシコ国境を西半球で指折りの厳重警戒地域にしようとしている。批判派はこの計画を「ステロイド剤を使った国境警備」(副作用が多いという意味)と呼び、修正案策定を担当した共和党議員さえ密入国の取り締まり手段としては「やり過ぎ」かもしれないと認めている。

 今回の修正案が承認されたことで、過去30年近くで最も抜本的な移民制度改革法案は上院を通過する見込みだ。法案が下院に送られた後の見通しには流動的な面もあるが、年内に成立するという楽観的な見方もある。移民制度改革法案の主眼は、メキシコ人が大半を占める米国内の不法滞在者1100万人を社会の影から引き出し、最初の申請から13年後には市民権の申請ができるようにすることだ。さらに農業やハイテク分野での就労ビザ制度改正や、雇用証明書の電子化、包括的な出入国追跡などが盛り込まれている。

 しかし、ロナルド・レーガン(Ronald Reagan)政権下の1986年以来となる大規模な移民制度改革法成立の可能性を高めるため、バラク・オバマ(Barack Obama)大統領率いる民主党は共和党への妥協を重ね、当局が新たな不法移民の流入に直面する事態を避けることを保証した。そして共和党のボブ・コーカー(Bob Corker)、ジョン・ホーベン(John Hoeven)両上院議員が策定した妥協案によって、2002年にはわずか1万人だった合衆国国境警備隊は、現在の約1万8000人から3万8405人に増員される。平均すると全長3200キロの米・メキシコ国境で1キロ当たり約12人が配備されることになる。

■もうかるのは軍事企業?

 修正案に賛成する議員らは、先住民居留地以外の場所にある既存の長さ約480キロの進入車両防御フェンスを、もっと厳重な「徒歩越境者防御フェンス」に変えることも望んでいる。フェンスはさらに80キロ分を増設し、合計で約1130キロの高いフェンスを設置する計画だ。一部のフェンスは、メキシコと米テキサス(Texas)州が接し、約2020キロの自然の国境となっているリオグランデ(Rio Grande)川沿いに設置される。

 さらに修正案は国境警備装備の増強も詳細に定めている。32億ドル(約3100億円)の予算を投入し、無人偵察機4機、ヘリコプター40機、ボート30隻、振動・画像・赤外線による地上無人センサー4595台、さらに数百台の固定監視カメラと移動監視システムなどを導入する。

 移民制度改革法案の原案を民主党議員4人と共に策定した共和党議員4人の1人、ジョン・マケイン(John McCain)上院議員は21日、米FOXニュース(Fox News)に対し「私が勧告したであろう内容以上の内容かと聞かれれば、その通りだと答える」と語った。「しかし、われわれは人々を安心させなければならない」

 ワシントンD.C.(Washington D.C.)周辺では、この国境警備強化案はジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)大統領が2007年に命じたイラクへの米軍増派と比較され始めている。民主党のパトリック・レーヒー(Patrick Leahy)上院議員は「米軍増派との比較は的を射ている。なぜならばこの法案は、米南西部の数百のコミュニティーを軍事化するものだからだ」と述べ、国境警備態勢の変更は「(米軍事・エネルギー大手)ハリバートン(Halliburton)が欲しがるクリスマスプレゼントのリストのようだ」と冷笑した。(c)AFP/Ivan Couronne