【6月18日 AFP】それは奇妙な光景だ──内部告発サイト「ウィキリークス(WikiLeaks)」の創設者、ジュリアン・アサンジ(Julian Assange)氏(41)はジャケットにネクタイを締めているが、靴を履いていない。とはいえ、在英エクアドル大使館から1年間も外出していなければ、靴を履く必要もほとんどないだろう。

 米政府を激怒させた内部告発サイトの立役者、アサンジ氏は、奇妙な1周年を記念してAFPの取材に応じ、大使館から一歩も出られない現状のこう着状態は外交的に解決可能だと主張した。

 まるでスパイ小説のように、オーストラリア出身の元コンピューターハッカーのアサンジ氏は2012年6月19日、ロンドン(London)のエクアドル大使館を訪れ、性犯罪容疑での取り調べを要求するスウェーデンに移送されるのを回避するため、突然の亡命申請を行った。

 スウェーデンに移送されれば、そこから米国に移送され、米外交公電とイラク、アフガニスタン両戦争における軍の機密情報を公開したことへの罪を問われて訴追される恐れがあるとアサンジ氏は懸念。エクアドル政府はこれに応じ、同氏の亡命を認めた。

 だが英国政府は、アサンジ氏のエクアドルまでの安全な移動の保証を拒否。その後1年間、大使館前では警察が24時間体制の監視を続け、アサンジ氏が大使館を離れようと外出した際に身柄を拘束する構えでいる。

 この1年は宇宙ステーションで暮らしているようだった、とアサンジ氏は語る。太陽灯で日光不足を補い、ルームランナーで運動した。同時に、アサンジ氏は米政府の悩みの種でもあり続けた。

 閉じ込められた難しい状況にどう対処しているのかとの質問については、「実際、私の精神は閉じ込められていない」と、大使館の上品な調度品がそろったフロントルームの椅子に深く腰掛けながら、アサンジ氏は語った。

「物理的な状況は厳しい。それでも、私は毎日活動している」

■スノーデン氏への懸念

 アサンジ氏の取材は、ウィキリークスが2010年に米軍機密情報と米外交公電を公開して以来最大規模の内部告発──米情報機関による大規模な電子監視プログラムの暴露──による衝撃が世界中に広がる中、行われた。

 米中央情報局(CIA)元職員のエドワード・スノーデン(Edward Snowden)氏は、政府による大がかりな国民の監視を、良心に従って暴露したと語る。そしてスノーデン氏は現在、刑事捜査の対象となった──アサンジ氏は、スノーデン氏がウィキリークスの内部告発者ブラッドリー・マニング(Bradley Manning)氏(25)のように厳しく扱われるだろうと懸念する。

「スノーデン氏はまさに英雄の手本。極めて勇敢な行動を実践した」とアサンジ氏は述べ、米国の「ゾッとする大規模監視国家」ぶりを暴露したことを称賛した。「ブラッドリー・マニング氏と同じ事態に陥ること──裁判を受けることなく拘禁され、収容施設で虐待され、そして今は終身刑の危機にある──は見たくない」

 米軍兵士のマニング氏は、戦争の機密情報や外交公電をウィキリークスに提供したとして軍法会議にかけられている。検察側は、機密情報を流出させることは、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)に協力することと同等と主張。敵対勢力ほう助罪の最高刑は死刑だが、検察側はマニング氏の裁判では死刑を求刑しない方針だ。

「彼ら(米当局)が目指しているのは、メディアに話すということは、敵方と交流する──死刑に値する罪──のと同じであるという判例を確立することだ」とアサンジ氏は語る。

「この裁判で問われているのは、米国、そして世界における出版の未来だ」

■1年以内に自由の身に?

 アサンジ氏の批判者は、アサンジ氏が恐れているように同氏の身柄がスウェーデン当局から米国に移送されることを示す証拠はないと述べ、同氏が性犯罪容疑について司法から逃げていると非難している。

 エクアドル大使館への避難は、長い法廷闘争の末の最後の展開だった。だがアサンジ氏は、英国とエクアドルが合意に達し、「1年以内」に自由の身になる可能性があると主張する。

「英国の立場は軟化していると思う。もちろん、何かに強いられることなく私に自由な移動を許すようなことをして公的に米国の面目を潰すようなことを英国は絶対にしないだろう」「だが、スウェーデン、オーストラリア、英国、米国の自尊心を損なわない方法はたくさんある」とアサンジ氏は語る。

 アサンジ氏があきらめ、大使館の外に自ら出る日は来るのだろうか。「もう十分だと思ったときだろうか。わからない。現状、われわれはかなり良い活動が出来ている」とアサンジ氏。

 最近の活動は外交公電や戦争機密情報の流出と比べると注目を集めていないとはいえ、ウィキリークスは今もなお、シリアの政治家らの電子メールなど、世界中の機密情報の公開を続けている。

 来年の今ごろ、アサンジ氏はどこにいるのだろうか。「願わくばオーストラリアやエクアドル、そして世界中を旅している」と、アサンジ氏は語った。(c)AFP/Katy Lee