【5月19日 AFP】台湾の漁船が9日にフィリピンの沿岸警備隊に銃撃され、65歳の台湾人船員1人が死亡した事件で、フィリピン当局は18日、この船員が「意図的に殺された」とする台湾側の主張を受け入れない姿勢を示した。

 事件を契機に、台湾とフィリピンの外交関係は冷え込んでいる。フィリピンの沿岸警備隊は、漁船が自国の領海に侵入したと主張した。

 台湾の捜査チーム幹部は、船員らが隠れていた漁船の操縦室に銃弾の大半が撃ち込まれていたと指摘。幹部はマニラ(Manila)市内で開いた記者会見で、「証拠を総合的に判断すると、フィリピンの警察当局が漁船「広大興28号(Guang Ta Hsin 28)」の船員らを意図的に銃撃していたのは明らかであり、殺人の意図があったことを示している」と述べた。

 事件発生現場は、フィリピン政府が領海、台湾当局が排他的経済水域(EEZ)をそれぞれ主張している海域にある。台湾は事件を踏まえ、フィリピンに対する制裁措置を発動した。

 フィリピンのベニグノ・アキノ(Benigno Aquino)大統領は15日、漁船の違法操業を取り締まる沿岸警備隊の任務で「意図せざる」死者が出たと述べ、「個人的」に謝罪を表明。台湾はこれを受け入れず、台湾の駐フィリピン代表(大使に相当)召還、フィリピン人労働者の新規雇用を凍結するとともに、フィリピン北方の海域で軍事演習を行った。

 フィリピンは中国政府と正式な外交関係を結ぶ一方、台湾との通商関係を維持。台湾では約8万7000人のフィリピン人が雇用されている。

 フィリピンのジェジョマル・ビナイ(Jejomar Binay)副大統領は18日、事件に反発した台湾人にフィリピン人が襲撃されたとの報道を踏まえ、フィリピン人労働者の安全確保を台湾当局に要請。公文書の発言記録によると、同副大統領は記者団に対し、「(フィリピン人が)棒で殴られ、4人が入院したと新聞などで報道されている」と語ったという。

 台湾のメディアは、若者の集団に襲撃されたフィリピン人1人が病院で治療を受けたと伝えた。

 海外で生活または就労する出国するフィリピン人は1000万人近くに上り、毎年数百億ドルが母国に送金され、フィリピン経済を支えている。(c)AFP