【5月11日 AFP】前週、東京で初開催された性的マイノリティーの祭典「東京レインボーウィーク(Tokyo Rainbow Week)」のプライドパレードを見に訪れたボリス・ディトリッヒ(Boris Dittrich)氏は、「結婚の平等」を求めるメッセージを掲げる参加者たちに注目せずにはいられなかった。

 参加者に「なぜ?」と問いかけると、「他の国で起きていることを見ていて、日本でも前に進む時が来たと思った」という声が返ってきた。

 オランダで国会議員を務めた後、同性愛者の人権擁護を訴える活動家となったディトリッヒ氏は現在、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights WatchHRW)のLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)分野の担当者として、世界各国を訪れている。「世界は狭まっている。世界のある場所で何かが起こると、(他の地域の)人々は触発される」(ディトリッヒ氏)

 結婚できるのは異性同士だけという長年の「規範」をオランダが打ち破ってから12年。同性婚を支持する動きは、世界中で勢いを得ている。

 4月にはウルグアイ、ニュージーランド、フランスの3か国が同性婚を合法化。同性婚を認める国は世界で14か国となった。さらに、米国の首都ワシントンと11州、メキシコとブラジルの一部地域で同性婚が認められており、米国では6月末までに連邦最高裁が同性婚に関する初の決定を下す見込みだ。

 ベルギー・ブリュッセル(Brussels)に本部を置く国際LGBT協会(International Lesbian, Gay, Bisexual, Trans and Intersex Association)の共同議長レナート・サバディーニ(Renato Sabbadini)氏は「映画みたいだ。群衆の中から誰か1人が立ち上がると、皆が次々と立ち上がる」と語る。

 米ニューヨークの支援団体「全米ゲイ・レズビアン・タスクフォース(National Gay and Lesbian Task Force)」のレイ・キャリー(Rea Carey)事務局長は「運動の渦中にいる私のような人間にとっても、とても速く感じる。けれどこの基盤作りには何十年もかかっている」と話す。

 だがこうした潮流が世界中どこでも起きているわけではない。アフリカや中東の大半の国を含む約75か国では、同性愛は今も犯罪とされている。そうした国では、同性婚の合法化ではなく、同性愛の非犯罪化が、LGBTの運動家たちの第一の目標だ。

■各国が合法化に至った要因は

 一方、結婚の平等性が確保された国では、そこへ至るまでにいくつかの要因があった。

「世界で都市化が進み、それが伝統的な規範を打ち崩す要因となっている」と分析するのは、世界の同性婚情勢に長年注目してきた人口統計学者のジョセフ・チェイミー(Joseph Chamie)氏。規範が崩れたことによって、結婚の意味の再考が促されているという。

 もう一つの要因は、マスメディアや大衆文化の中で性的マイノリティーの容認が進んでいることだ。つい前週には、米プロバスケットボール協会(NBA)のジェイソン・コリンズ(Jason Collins)選手が、米国のプロスポーツ選手として初めて同性愛者であることを公言(カミングアウト)した。

 さらにもっと単純な事実として、自分がゲイやレズビアン、トランスセクシュアルであることを気兼ねなく明かす人が、友人や同僚、家族など個人的な間柄の中にいるという人が増えていることがある。

 国際LGBT協会のサバディーニ氏は「身近な人の存在によって、抽象的ではなく、非常に具体的な形で問題を捉えるようになると、多くの人はもっと進んで(LGBTの)人々に平等な権利を認めようという姿勢になる」と説明する。

 また、地域特有の要因もある。

■「結婚の重要性の復活」?

 スペインやアルゼンチン、ウルグアイなど、独裁制の記憶がまだ生々しく残る国での同性婚の容認は、人権思想や民主化といったより広範な文脈の中で展開し、今も同性愛を罪とするローマ・カトリック教会の抵抗をはねのけてきた。

 一方、米国では「他の富裕国よりも結婚がステータス・シンボル(地位の象徴)となっているために、同性婚が問題となっている」と、ジョンズ・ホプキンス大学(Johns Hopkins University)の社会学者、アンドリュー・シャーリン(Andrew Cherlin)氏は指摘する。「今われわれが見ているものはおそらく、今まで結婚ができなかった人々が率いる、結婚の重要性の復活ではないだろうか」

 前向きな見解として、チェイミー氏は、共同市場で束ねられている欧州連合(EU)では、婚姻法でも加盟国間で足並みを揃えようという圧力が働き、将来的にEU全体で結婚の平等性が規範となるだろうと予測している。また米国では、米最高裁が同性婚支持に立つ判決を下せば、その後に続く州がいくつか出てくるだろうと、全米ゲイ・レズビアン・タスクフォースのキャリー事務局長は予測している。

 ただしキャリー氏によると、同性婚が広く認められるようになる一方で、他の深刻な問題が覆い隠されてしまう恐れもあるという。米国の31州では州法で、結婚を非常に厳密に異性婚に限定しているし、連邦法では、婚姻状態にかかわらず、同性愛者であることを理由に雇い主が従業員を解雇することを明確に阻止する条項はない。(c)AFP/Robert MacPherson