同性婚はなぜフランスを二分したのか
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【4月24日 AFP】同性婚は多くの国で大きな混乱を起こすことなく成立したが、政教分離の原則を強く推進し、私生活にまつわる問題には寛大さを示すことで知られる国、フランスでは巨大な嵐を巻き起こした。
フランソワ・オランド(Francois Hollande)大統領の任期1年目における熾烈な闘争の中で血の匂いを感じ取った右派指導者たちは、猛烈な反対運動を展開した。
一方、社会学者たちは、同性婚をめぐる議論の激烈さは、フランスの社会構造とアイデンティティー危機からも説明することができると指摘する。
フランス議会では、議員たちが乱闘寸前まで過熱した。同性愛活動家らは、同性愛者に対する暴力事件が急増したと報告している。そして法案に反対する数百万人の人々が、徹底抗戦を誓って路上に繰り出した。
■反撃の機会をつかんだ野党右派勢力
フランスでの同性婚をめぐるこの分裂は、政治的対立をなぞっている。野党勢力は法案反対で結集し、すでに激しい批判にさらされていた政権にいっそうの圧力を加える機会を逃さなかった。
「右派の有権者にとって、オランド氏の大統領就任とジャンマルク・エロー(Jean-Marc Ayrault)首相の内閣に反対を表明する初の機会だった」と政治アナリストのジャンイブ・カミュ(Jean-Yves Camus)氏は語る。
ニコラ・サルコジ(Nicolas Sarkozy)前大統領が再選に失敗し、政界を引退したことで、フランスの主流右派はぼろぼろになった。こうした中、同性婚の問題はサルコジ氏が率いていた国民運動連合(UMP)にとって3重の意味で好機となったと、カミュ氏は指摘する。
「(UMPは)野党となった今、新たな勢いを必要としている。さらに社会状況と経済の悪化は不満拡大に有利に働き、(オランド)大統領の支持率はどん底だ」
■保守的でカトリック教徒というフランスの一面
欧州議会(European Parliament)の中道派議員である社会学者のロベール・ロシュフォール(Robert Rochefort)氏は、この騒動がフランス社会の不安定さを示す新たな証拠となったと強調する。
「同性婚は歴史の流れに沿ったものであり、いずれは全ての西側諸国で成立することになるだろう。だが(フランス)社会は、自分たちが抱いている恐怖を懸念している」
サルコジ政権と、同氏の再選に向けた選挙運動で中心的な位置を占めていたのは、国家のアイデンティティーの問題だった。そして、フランスで過去最大規模に増加している極右有権者たちは、この議論を再び俎上(そじょう)に載せたいと考えている。
フランス国家は政教分離を徹底しているものの、同性婚法案は、フランス社会の無視できない部分が今もなお、かたくなな保守派カトリック教徒であることを露呈した。
一度に数十万人もの参加者が集まることもあった一連の法案反対デモでは、保守主義者、カトリック原理主義者、極右ナショナリストらとともに、家族連れが行進する姿が見られた。
これまでの世論調査では、フランス人の過半数が同性婚を支持しているものの、同性愛者カップルによる養子縁組の権利については反対派が僅差で半数を上回っていることが繰り返し示されてきた。
フランスで最も著名な社会学者の1人、ミシェル・ビビオルカ(Michel Wieviorka)氏は「当初、この法案が医療的支援を受けた(同性愛者カップルによる)生殖も合法化することになると示唆した政府は、不器用だった」と分析する。
■今もなお続く、政教分離がもたらした対立
ジャンイブ・カミュ氏は、この問題によってフランスで巻き起こった白熱した議論について、「共和制の夜明けから2世紀以上が経過する今もなお、強い感情をかきたてる過去の遺産」だと述べる。
教会と国家の分離は、フランスにおいては血塗られた歴史だった。そして2世紀が経過した今も、対立は依然として残っていると、カミュ氏は主張する。
カトリック原理主義者は数でこそ少数派だが、地に深く根をおろしている。また右派の中には、左派政権の正統性を決して認めない人々がいる。
だがビビオルカ氏は、抗議デモは全般的に勢いを失うか、過激派に乗っ取られるようになっており、反対派の結束の糸はほつれつつあると指摘。同性婚はいずれ多くの人に支持されることになるだろうと予測している。(c)AFP/Martine NOUAILLE