金正恩氏のイメージ戦略、ハード路線への急展開
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【4月10日 AFP】親しみやすそうに笑う家庭的な男性から、全面戦争も辞さない強硬な軍事指導者へ──北朝鮮のプロパガンダ機構はこの1か月で金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)第1書記の大々的なイメージチェンジを図った。
北朝鮮のけたたましく好戦的な物言いのここ数週間の急激なエスカレートは、国営メディアが発信する画像の同じく急速な転換と一致する。北朝鮮の言葉が今までにないほど威嚇的になるにつれて、それに付随する写真は、若い金正恩氏個人を撮影したものも、それ以外のものも、明らかに攻撃性を増している。
2011年12月、父・金正日(キム・ジョンイル、Kim Jong Il)総書記の死を受けて正恩氏が北朝鮮の最高指導者に就任した直後は軍事的なテーマの写真があふれ、軍幹部を従えた正恩氏の姿が多かった。一貫性を示すこと、つまり朝鮮人民軍が忠誠を誓う新たな最高司令官が、父親の遺産の柱である「先軍政治」を引き継ぐというメッセージは明らかだった。「軍最高幹部の一団と一緒にいる若い正恩氏は、従軍経験すらないまま、軍の信頼をある程度勝ち取ることができたのかもしれない」と米政府系非営利シンクタンク、防衛分析研究所(Institute of Defense Analyses、IDA)のケイティ・オー(Katy Oh)氏はみる。
しかし2012年半ばまでにトーンは変化した。依然として軍関連の写真もあったがその数は減り、温和な笑顔の正恩氏を写した写真が増えた。北朝鮮建国の指導者である祖父・金日成(キム・イルソン、Kim Il-Sung)主席の時代からプロパガンダの中心となってきた工場や学校の「現地視察」の写真と共に、もっと私的な写真も登場した。より外交的で明らかにくつろいだ姿が見られ、ある時は遊園地でジェットコースターを楽しむ写真まであった。また妻が登場する機会も増え、洗練された魅力的な女性の姿が夫の写真に現代性と華やかさを添え、外国メディアの人気者ともなった。
■強硬と柔和の二重の指導者像
北朝鮮は軍の上に立つ指揮官と、慈悲深く母親的でさえある人物という、ともすると矛盾して見える二重の指導者像に慣れている。
北朝鮮のプロパガンダに関する専門家B・R・マイヤーズ(B.R. Myers)氏は著作『The Cleanest Race』(最も清い人種)の中で、北朝鮮は外国人よりも自国民が純真で道徳的だが、身体的には優れていないため、指導者の「導きと保護」を必要とするといった描き方の人種観に基づいたイデオロギーを持っていると述べている。
2012年末に向かって、また同年12月の長距離ロケット発射を受けて、軍事的テーマの写真の量がまた増え始め、2013年2月の3度目の核実験後には軍事的な写真一色に。正恩氏は突如、どこにでも出没するようになった。
辺境の前線の島々に駐留する部隊を視察し、今にも転覆しそうな小舟の船首に立ち、風雨をものともしない姿を見せたかと思うと、トーチカに入り、韓国領の諸島の敵の位置を双眼鏡で見定める姿もあった。そして常に、まるでオーケストラの指揮者のような身振りで軍幹部を指揮し、前方を指差していた。米国に核攻撃すると威嚇した際には、ミサイル攻撃目標を示した米国の地図を背に、人民軍上層部に囲まれながら作戦司令室のデスクの前に座る写真が公開された。
長年にわたって北朝鮮の国営メディアが発信する写真を見続け、編集してきた韓国紙東亜日報(Dong-A Ilbo)の写真記者ビョン・ヨンウク(Byeon Yeong-Wook)氏は「変化が本当に訪れたのは核実験後だった。画像は急速に威嚇的になった」と語る。「誇張していると思える写真やばかばかしく見える写真もあるだろう。しかし北朝鮮国内の人々は、強く勇気ある指導者像だと即座に受け取る」
拳銃やライフルを持つ正恩氏の写真や、ライフルの射撃訓練や砲兵隊の発射演習を視察する写真もある。そこに正恩氏の姿がなければ、写真は如実に凶暴性を増しうる。北朝鮮の国営朝鮮中央通信(Korean Central News Agency、KCNA)が最近公開した動画や写真の中には、韓国の金寛鎮(キム・グァンジン、Kim Kwan-Jin)国防相の写真を張り付けた人形ののど元に噛みつく軍用犬の訓練写真があった。(c)AFP/Lim Chang-Won
北朝鮮のけたたましく好戦的な物言いのここ数週間の急激なエスカレートは、国営メディアが発信する画像の同じく急速な転換と一致する。北朝鮮の言葉が今までにないほど威嚇的になるにつれて、それに付随する写真は、若い金正恩氏個人を撮影したものも、それ以外のものも、明らかに攻撃性を増している。
2011年12月、父・金正日(キム・ジョンイル、Kim Jong Il)総書記の死を受けて正恩氏が北朝鮮の最高指導者に就任した直後は軍事的なテーマの写真があふれ、軍幹部を従えた正恩氏の姿が多かった。一貫性を示すこと、つまり朝鮮人民軍が忠誠を誓う新たな最高司令官が、父親の遺産の柱である「先軍政治」を引き継ぐというメッセージは明らかだった。「軍最高幹部の一団と一緒にいる若い正恩氏は、従軍経験すらないまま、軍の信頼をある程度勝ち取ることができたのかもしれない」と米政府系非営利シンクタンク、防衛分析研究所(Institute of Defense Analyses、IDA)のケイティ・オー(Katy Oh)氏はみる。
しかし2012年半ばまでにトーンは変化した。依然として軍関連の写真もあったがその数は減り、温和な笑顔の正恩氏を写した写真が増えた。北朝鮮建国の指導者である祖父・金日成(キム・イルソン、Kim Il-Sung)主席の時代からプロパガンダの中心となってきた工場や学校の「現地視察」の写真と共に、もっと私的な写真も登場した。より外交的で明らかにくつろいだ姿が見られ、ある時は遊園地でジェットコースターを楽しむ写真まであった。また妻が登場する機会も増え、洗練された魅力的な女性の姿が夫の写真に現代性と華やかさを添え、外国メディアの人気者ともなった。
■強硬と柔和の二重の指導者像
北朝鮮は軍の上に立つ指揮官と、慈悲深く母親的でさえある人物という、ともすると矛盾して見える二重の指導者像に慣れている。
北朝鮮のプロパガンダに関する専門家B・R・マイヤーズ(B.R. Myers)氏は著作『The Cleanest Race』(最も清い人種)の中で、北朝鮮は外国人よりも自国民が純真で道徳的だが、身体的には優れていないため、指導者の「導きと保護」を必要とするといった描き方の人種観に基づいたイデオロギーを持っていると述べている。
2012年末に向かって、また同年12月の長距離ロケット発射を受けて、軍事的テーマの写真の量がまた増え始め、2013年2月の3度目の核実験後には軍事的な写真一色に。正恩氏は突如、どこにでも出没するようになった。
辺境の前線の島々に駐留する部隊を視察し、今にも転覆しそうな小舟の船首に立ち、風雨をものともしない姿を見せたかと思うと、トーチカに入り、韓国領の諸島の敵の位置を双眼鏡で見定める姿もあった。そして常に、まるでオーケストラの指揮者のような身振りで軍幹部を指揮し、前方を指差していた。米国に核攻撃すると威嚇した際には、ミサイル攻撃目標を示した米国の地図を背に、人民軍上層部に囲まれながら作戦司令室のデスクの前に座る写真が公開された。
長年にわたって北朝鮮の国営メディアが発信する写真を見続け、編集してきた韓国紙東亜日報(Dong-A Ilbo)の写真記者ビョン・ヨンウク(Byeon Yeong-Wook)氏は「変化が本当に訪れたのは核実験後だった。画像は急速に威嚇的になった」と語る。「誇張していると思える写真やばかばかしく見える写真もあるだろう。しかし北朝鮮国内の人々は、強く勇気ある指導者像だと即座に受け取る」
拳銃やライフルを持つ正恩氏の写真や、ライフルの射撃訓練や砲兵隊の発射演習を視察する写真もある。そこに正恩氏の姿がなければ、写真は如実に凶暴性を増しうる。北朝鮮の国営朝鮮中央通信(Korean Central News Agency、KCNA)が最近公開した動画や写真の中には、韓国の金寛鎮(キム・グァンジン、Kim Kwan-Jin)国防相の写真を張り付けた人形ののど元に噛みつく軍用犬の訓練写真があった。(c)AFP/Lim Chang-Won