「沖縄中国論」を主張する中国の強硬派
このニュースをシェア
【10月12日 AFP】中国歴代王朝の官吏や留学生を教育した北京(Beijing)の「国子監(Imperial College)」──現在では観光地となっているこの建物に、ガラスケースに入った18世紀の黄ばんだ書物が展示されている。これこそ、沖縄が中国の領土だという「証拠」だと主張する人々が中国にはいる。
日本と中国は長年、東シナ海(East China Sea)に浮かぶ無人の小島の数々をめぐって角突き合わせており、軍事衝突への発展を懸念する声も聞かれる。だが、現代の中国で最も強硬派の国粋主義者たちは当局からの暗黙の了解の下、さらに広域の領有権を主張する。その対象には、人口130万人と在日米軍基地を有する沖縄も含まれている。
■琉球王国――二重従属の複雑な歴史
日本本土から台湾のすぐ手前まで、約1000キロにわたって連なる南西諸島(中国名:琉球諸島、Ryukyu Islands)。その中で最も大きな沖縄本島は、琉球王国(1429~1879)の中心だった。琉球王国は中国歴代王朝の皇帝と日本の幕藩体制の双方に忠誠を誓い、明治政府による1879年の琉球併合まで、数百年にわたり明朝と清朝に貢ぎ物を献上していた。
日本と中国という強国のはざまで、琉球王国は複雑な歴史を抱えることになる。皇帝への貢ぎ物の見返りとして、中国との交易や文化交流は栄えた。ところが17世紀初頭より日本の圧力を受けるようになり、薩摩藩による懲罰的な琉球侵攻や、度重なる忠誠や年貢の要求にさいなまれた。表向きの独立だけは保ったものの、この「二重従属」は19世紀末、近代化を進める明治政府が琉球の曖昧な位置付けについに我慢できなくなるまで続いた。
琉球人は民族的・言語学的に中国よりも日本本土に近いと考えられている。しかし一部の中国人は、歴史的・文化的つながりを根拠に沖縄に対する中国の領有権を主張し、日本の沖縄領有は第2次世界大戦まで日本が続けた強引な膨張主義の名残だと批判する。
■反日デモでは「沖縄を取り戻せ」のプラカードも
電子技師のツー・シャオボ(Zhu Shaobo)さんは、国子監に展示される1760年代(清朝時代)に書かれた琉球留学生に関する記録を眺めながら「琉球が中国のものだということは、こういう物が示している」と語った。展示の解説文には「琉球の学生たちは熱心に学び、中には中国人学生に劣らない文化水準を持つ者もいた」と書かれている。
中国には南西諸島の領有権を主張する正当性があるという考えは、中国・台湾の国粋主義者たちの間に長年存在してきた。しかし、この主張がここ最近の尖閣諸島(Senkaku Islands、中国名:釣魚島、Diaoyu Islands)をめぐる論争で改めて注目を集めている。中国で最近起きた反日デモでは「琉球奪還」「沖縄を取り戻せ」といったメッセージを掲げる参加者もみられた。
中国政府としてはそのような主張はしていないが、国営メディアは日本の沖縄領有に疑問を呈する記事や論説を掲載している。7月には中国人民解放軍の羅援(Luo Yuan)少将が「1879年に日本に接収される前は、琉球王国は常に中国王朝政府の直下に位置する独立王国だった」と主張する論説が国営紙に掲載された。
■「非現実的」な一部の意見、と専門家
ただ、欧米や日本の研究者は、沖縄と中国の歴史的関係は今日の中国による沖縄領有権の根拠にはならないと指摘する。アジアでは、琉球王国のみならず多くの国々が、中国を中心とした国際社会の一部を担っていた。「それは文化的な従属関係であり、また中国の王朝が交易を支配しようとする手段の1つだった」と、琉球史に詳しい米ペンシルベニア州立大学(Pennsylvania State University)のグレゴリー・スミッツ(Gregory Smits)氏は説明する。
専門家らは中国政府が沖縄の領有権を主張する可能性はほとんどないと見ている。オーストラリア国立大学(Australian National University)のギャバン・マコーマック(Gavan McCormack)名誉教授は、そのような主張は「非現実的」であり、「日本を(領有権問題に関する)交渉の席へ引き戻すための過激な立場」だろうとみなす。
北京大学(Peking University)の賈慶国(Jia Qingguo)氏(国際関係学)も、「既に複雑化している問題を中国政府がこれ以上複雑にしたがっているとは思えない」と言う。
■米軍基地を意識する中国
それでも、北京で料理店を切り盛りする沖縄出身の金城さん(25)にとって、日本の沖縄領有に対して投げ掛けられる疑問は不安の種になっている。第2次世界大戦末期の1945年、沖縄は日米軍による太平洋戦線の激戦地だった。「私たちの祖母は戦争を経験しています。話を聞くと、本当に辛い思いをしたようです」
日米安全保障条約の下、米国は沖縄本島に大規模な軍事施設を今も維持している。また、米国が戦略的軸足をアジア地域へ移したことも「封じ込め」に対する中国の懸念を誘っている。
中国の大衆紙「世界新聞網(World Journal)」の8月号の表紙には、沖縄へ向かって飛んでいく発射体の上に「沖縄の基地を標的とする人民解放軍の誘導ミサイル」との見出しが掲げられていた。(c)AFP/Kelly Olsen
日本と中国は長年、東シナ海(East China Sea)に浮かぶ無人の小島の数々をめぐって角突き合わせており、軍事衝突への発展を懸念する声も聞かれる。だが、現代の中国で最も強硬派の国粋主義者たちは当局からの暗黙の了解の下、さらに広域の領有権を主張する。その対象には、人口130万人と在日米軍基地を有する沖縄も含まれている。
■琉球王国――二重従属の複雑な歴史
日本本土から台湾のすぐ手前まで、約1000キロにわたって連なる南西諸島(中国名:琉球諸島、Ryukyu Islands)。その中で最も大きな沖縄本島は、琉球王国(1429~1879)の中心だった。琉球王国は中国歴代王朝の皇帝と日本の幕藩体制の双方に忠誠を誓い、明治政府による1879年の琉球併合まで、数百年にわたり明朝と清朝に貢ぎ物を献上していた。
日本と中国という強国のはざまで、琉球王国は複雑な歴史を抱えることになる。皇帝への貢ぎ物の見返りとして、中国との交易や文化交流は栄えた。ところが17世紀初頭より日本の圧力を受けるようになり、薩摩藩による懲罰的な琉球侵攻や、度重なる忠誠や年貢の要求にさいなまれた。表向きの独立だけは保ったものの、この「二重従属」は19世紀末、近代化を進める明治政府が琉球の曖昧な位置付けについに我慢できなくなるまで続いた。
琉球人は民族的・言語学的に中国よりも日本本土に近いと考えられている。しかし一部の中国人は、歴史的・文化的つながりを根拠に沖縄に対する中国の領有権を主張し、日本の沖縄領有は第2次世界大戦まで日本が続けた強引な膨張主義の名残だと批判する。
■反日デモでは「沖縄を取り戻せ」のプラカードも
電子技師のツー・シャオボ(Zhu Shaobo)さんは、国子監に展示される1760年代(清朝時代)に書かれた琉球留学生に関する記録を眺めながら「琉球が中国のものだということは、こういう物が示している」と語った。展示の解説文には「琉球の学生たちは熱心に学び、中には中国人学生に劣らない文化水準を持つ者もいた」と書かれている。
中国には南西諸島の領有権を主張する正当性があるという考えは、中国・台湾の国粋主義者たちの間に長年存在してきた。しかし、この主張がここ最近の尖閣諸島(Senkaku Islands、中国名:釣魚島、Diaoyu Islands)をめぐる論争で改めて注目を集めている。中国で最近起きた反日デモでは「琉球奪還」「沖縄を取り戻せ」といったメッセージを掲げる参加者もみられた。
中国政府としてはそのような主張はしていないが、国営メディアは日本の沖縄領有に疑問を呈する記事や論説を掲載している。7月には中国人民解放軍の羅援(Luo Yuan)少将が「1879年に日本に接収される前は、琉球王国は常に中国王朝政府の直下に位置する独立王国だった」と主張する論説が国営紙に掲載された。
■「非現実的」な一部の意見、と専門家
ただ、欧米や日本の研究者は、沖縄と中国の歴史的関係は今日の中国による沖縄領有権の根拠にはならないと指摘する。アジアでは、琉球王国のみならず多くの国々が、中国を中心とした国際社会の一部を担っていた。「それは文化的な従属関係であり、また中国の王朝が交易を支配しようとする手段の1つだった」と、琉球史に詳しい米ペンシルベニア州立大学(Pennsylvania State University)のグレゴリー・スミッツ(Gregory Smits)氏は説明する。
専門家らは中国政府が沖縄の領有権を主張する可能性はほとんどないと見ている。オーストラリア国立大学(Australian National University)のギャバン・マコーマック(Gavan McCormack)名誉教授は、そのような主張は「非現実的」であり、「日本を(領有権問題に関する)交渉の席へ引き戻すための過激な立場」だろうとみなす。
北京大学(Peking University)の賈慶国(Jia Qingguo)氏(国際関係学)も、「既に複雑化している問題を中国政府がこれ以上複雑にしたがっているとは思えない」と言う。
■米軍基地を意識する中国
それでも、北京で料理店を切り盛りする沖縄出身の金城さん(25)にとって、日本の沖縄領有に対して投げ掛けられる疑問は不安の種になっている。第2次世界大戦末期の1945年、沖縄は日米軍による太平洋戦線の激戦地だった。「私たちの祖母は戦争を経験しています。話を聞くと、本当に辛い思いをしたようです」
日米安全保障条約の下、米国は沖縄本島に大規模な軍事施設を今も維持している。また、米国が戦略的軸足をアジア地域へ移したことも「封じ込め」に対する中国の懸念を誘っている。
中国の大衆紙「世界新聞網(World Journal)」の8月号の表紙には、沖縄へ向かって飛んでいく発射体の上に「沖縄の基地を標的とする人民解放軍の誘導ミサイル」との見出しが掲げられていた。(c)AFP/Kelly Olsen