【9月5日 AFP】片や白人、片や黒人。片や裕福な家庭の生まれ、片やシカゴ(Chicago)の労働者階級の家庭の出身。今年の米大統領選では、共和党候補に指名されたミット・ロムニー(Mitt Romney)前マサチューセッツ(Massachusetts)州知事と民主党候補になる現職バラク・オバマ(Barack Obama)大統領と同様に、両者の妻であるアン・ロムニー(Ann Romney)夫人(63)と、現役ファーストレディーのミシェル・オバマ(Michelle Obama)夫人(48)が好対照をなしている。

 選挙戦に決着をつける11月6日の投票日が近づく中、どちらの候補者の妻の好感度が高いかが、通常の大統領選に比べて重要視される可能性も指摘されている。

 両夫人とも品格があり、夫の応援で成果を上げることが予想される。政治の専門家らは、大統領選の目的は大統領の家庭生活のパートナーを選ぶことではないと強調するが、ファーストレディーは有権者が各候補者に持つイメージを作り上げる上で重要な要素になっており、投票行動に影響を与えている。

 カリフォルニア大学リバーサイト校(University of California, Riverside)のキャサリン・オルゴー(Catherine Allgor)教授は、先週フロリダ(Florida)州タンパ(Tampa)で開かれた共和党全国大会(Republican National Convention)でアン夫人が行った応援演説に人々が熱心に耳を傾けた理由はこの点にあると言う。同教授はAFP通信に対し、「米国人はこうした女性たち(候補者の妻)に、候補者の誠実さを証明する力があると信じています。また、夫や父親、家の事柄を管理する者としてどのような家庭生活を送っているかが、候補者の道徳性や本当の人柄の証しになると考えているのです」と語った。
  
 ノースカロライナ(North Carolina)州シャーロット(Charlotte)で開幕した民主党全国大会でミシェル夫人が行う応援演説も同じように注目を集めるだろう。米国のファーストレディー史が専攻のオルゴー教授は、大衆の候補者観が覆れば、こうした応援演説は効果的になり得るとコメント。「この効果が非常に大きいからこそ、候補者の妻は演壇に立ち、結婚について語るのです。うまくいけば、絶大な効果を発揮します」と語った。
 
■対照的な2人

 一方、米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)記者で、ホワイトハウスの内情を暴露したとされるベストセラー「The Obamas(オバマ家の人々)」の著者であるジョディ・カンター(Jodi Kantor)氏は米公共ラジオ放送に対し、両候補者の妻たちは多少刺激的な発言をしても政治的批判から守られると指摘。「アン夫人が演説で語った内容は高度に政治的でしたが、『愛についてお話します(this is about love)』と切り出していました。選挙戦や政治を越えている点を強く印象づけるほど、演説の効果は高まります」と語った。

 現役ファーストレディーのミシェル夫人は、プリンストン(Princeton)大とハーバード(Harvard)大で学んだ弁護士で、一時期はオバマ家の家計を支えていたキャリアウーマン。オバマ氏が大統領に就任してからは、軍人の家族を支援したり、子どもたちの食生活の改善と肥満防止を呼び掛ける運動「Let's Move!」を主導したりするなど幅広い活動に携わってきた。

 一方のアン夫人は、就労経験のない専業主婦で、子供を持つ親のグループなどの市民活動に積極的に取り組んでいる。神経の病気である多発性硬化症と長年戦い、乗馬で症状が軽減したと語っている。乳がんも患ったものの、寛解した。実業家の娘として生まれた夫人は、ロムニー氏に合わせてモルモン教に改宗し、ブリガムヤング大学(Brigham Young University)でフランス語の学士号を修得した。

 アン夫人は、銀髪で真珠を身に着けていたバーバラ・ブッシュ(Barbara Bush)夫人や、穏やかで控えめだったローラ・ブッシュ(Laura Bush)夫人など、過去のファーストレディーについて人々が持つ、伝統的で育ちが良い印象を与えるだろう。対照的にアフリカ系米国人初のファーストレディーになったミシェル夫人は、黒人芸術家の作品を展示したり、カントリーからジャズ、ブルース、ロックまで幅広い音楽ジャンルのコンサートを開催したりするなど、ホワイトハウスをより開かれたものにしようと努めている。(c)AFP/Stephanie Griffith