相次いで再燃した日本の領土問題、その背景を探る
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【8月22日 AFP】わずか1か月余りの間に、日本が関わる長年の領土問題が3つ立て続けに再燃した。日本政府が近隣諸国との領有権問題に固執しているように見える点について専門家らは、21世紀の国際社会で存在感を示そうともがく日本のさまよえる外交政策を象徴していると分析する。
最初の衝撃は7月初め、ロシアのドミトリー・メドベージェフ(Dmitry Medvedev)首相によってもたらされた。第2次世界大戦(World War II)終戦間際に旧ソビエト連邦が占領した北方領土を訪問したメドベージェフ首相は、「極めて遺憾」だとの日本の抗議に対し、記者団にこう言い放った。「かまうものか」
続いて韓国の李明博(イ・ミョンバク、Lee Myung-Bak)大統領が、竹島(Takeshima、韓国名:独島、Dokdo)を空路で訪れ、日韓関係が急速に冷え込む結果となった。
そして前週、日本政府は沖縄県の尖閣諸島(Senkaku Islands、中国名:釣魚島、Diaoyu Islands)に上陸した香港(Hong Kong)の活動家14人を逮捕・強制送還。19日には、今度は日本人10人が尖閣諸島に上陸した。
■日本にとって価値の高い島々
いずれの事件も、民主党政権がはっきりとした方向性を打ち出せないまま原発問題と消費増税をめぐって不安定化し、秋の解散総選挙が現実味を増しつつある東京・永田町に重くのしかかっている。
領土問題の渦中にある島々は全てエネルギー、鉱物、漁業など貴重な資源の宝庫だ。さらに、中国の影響力が増大する東アジア地域において戦略的な価値もある。
北東アジアの国際関係に詳しい韓国・延世大学(Yonsei University)国際学部の武貞秀士(Hideshi Takesada)教授は、次のように警告する。「尖閣は(日本と)大陸を直接結ぶ窓口。もし万が一、日本が尖閣を失うようなことになれば、前線の重要な部分を失うことになる」
「それ以上に、弱腰外交は別の分野に波及する恐れもある。たとえば、特許などの分野で中国が強気に出ることも予想される」
同志社大学(Doshisha University)の寺田貴(Takashi Terada)教授は、領土問題は20世紀初頭の日本の帝国主義と切り離せないと指摘する。日本が東アジアへと領土を拡大していった際、しばしば暴力的な手段が使われたことが、支配下に組み込まれた地域の人々の間に強い反発を生んでいるというのだ。「欧州はある程度、冷戦の負の遺産を解決してきたが、領土問題など、アジアでは今でもたくさんの問題が残っている」
事実、日本は第2次世界大戦を正式に終結させる平和条約をロシア(旧ソ連)と締結していない。
■パイプ持たない民主党、変わる地域均衡、揺らぐ日米関係
日本は一連の領土問題をめぐる衝突を阻止することも、解決することもできずにいる。その原因は活力を失った政治だと寺田教授は言う。
寺田教授が問題視するのは、2009年に自民党から政権を奪取した民主党の経験不足だ。50年にわたって政権をほぼ独占してきた自民党の政治家たちが各国との間に築いた個人的なパイプを、民主党の中心人物のほとんどは持っていない。また、首相が次々と交代したことで政権は不安定化し、日本にはやり返す力がない、との印象を与えてしまっているという。
中国の経済成長と日本の不況も、地域の均衡を変えた。「かつて、アジアの国々は日本の経済・技術協力を必要としていた。その見返りとして、それらの国々は対日本外交において譲歩してきた」(寺田教授)
中途半端な民主党政権の態度によって日米関係が悪化したことも、周辺国に付け入る隙を与えた。「日本は日米同盟により守れられてきたため、領土問題はそれほど顕在化されてこなかった。しかし、昨今のギクシャクした日米関係は、中国や韓国が強気に出るきっかけになっている」と寺田教授は指摘している。
ただ、だからといって日本には慌ててまた米国に擦り寄るという単純な選択肢はないと、一橋大学(Hitotsubashi University)の加藤哲郎(Tetsuro Kato)名誉教授は忠告する。その理由は1つには米国が、自国の国益を損なう危険をはらんだ領土問題でその手を汚す気がないためだが、世界のパワーバランスが変わったことも一因だという。
「中国の存在感が大きくなってきて、日本が米国だけに頼っているのでは力が弱くなってきた」(加藤教授)
■過熱すれば軍事衝突の恐れも
野田首相は前月、尖閣諸島の防衛に自衛隊を派遣する可能性に言及したが、政府に対して何らかの行動を求める声が国内で高まる中、こうした発言に飛びつく政治家が増える可能性もある。
米ボストン大学(Boston University)のトーマス・バーガー(Thomas Berger)准教授(国際関係)は、短期的には軍事衝突は起きないだろうと分析した上で、「しかし、この地域で領土問題をめぐって市民の怒りが膨らんでいるのは、非常に気掛かりだ」と述べ、懸念も示した。
「衝突の可能性を除外することはできない。地域内での軍拡競争も既にかなり進行している」 (c)AFP/Jacques Lhuillery
最初の衝撃は7月初め、ロシアのドミトリー・メドベージェフ(Dmitry Medvedev)首相によってもたらされた。第2次世界大戦(World War II)終戦間際に旧ソビエト連邦が占領した北方領土を訪問したメドベージェフ首相は、「極めて遺憾」だとの日本の抗議に対し、記者団にこう言い放った。「かまうものか」
続いて韓国の李明博(イ・ミョンバク、Lee Myung-Bak)大統領が、竹島(Takeshima、韓国名:独島、Dokdo)を空路で訪れ、日韓関係が急速に冷え込む結果となった。
そして前週、日本政府は沖縄県の尖閣諸島(Senkaku Islands、中国名:釣魚島、Diaoyu Islands)に上陸した香港(Hong Kong)の活動家14人を逮捕・強制送還。19日には、今度は日本人10人が尖閣諸島に上陸した。
■日本にとって価値の高い島々
いずれの事件も、民主党政権がはっきりとした方向性を打ち出せないまま原発問題と消費増税をめぐって不安定化し、秋の解散総選挙が現実味を増しつつある東京・永田町に重くのしかかっている。
領土問題の渦中にある島々は全てエネルギー、鉱物、漁業など貴重な資源の宝庫だ。さらに、中国の影響力が増大する東アジア地域において戦略的な価値もある。
北東アジアの国際関係に詳しい韓国・延世大学(Yonsei University)国際学部の武貞秀士(Hideshi Takesada)教授は、次のように警告する。「尖閣は(日本と)大陸を直接結ぶ窓口。もし万が一、日本が尖閣を失うようなことになれば、前線の重要な部分を失うことになる」
「それ以上に、弱腰外交は別の分野に波及する恐れもある。たとえば、特許などの分野で中国が強気に出ることも予想される」
同志社大学(Doshisha University)の寺田貴(Takashi Terada)教授は、領土問題は20世紀初頭の日本の帝国主義と切り離せないと指摘する。日本が東アジアへと領土を拡大していった際、しばしば暴力的な手段が使われたことが、支配下に組み込まれた地域の人々の間に強い反発を生んでいるというのだ。「欧州はある程度、冷戦の負の遺産を解決してきたが、領土問題など、アジアでは今でもたくさんの問題が残っている」
事実、日本は第2次世界大戦を正式に終結させる平和条約をロシア(旧ソ連)と締結していない。
■パイプ持たない民主党、変わる地域均衡、揺らぐ日米関係
日本は一連の領土問題をめぐる衝突を阻止することも、解決することもできずにいる。その原因は活力を失った政治だと寺田教授は言う。
寺田教授が問題視するのは、2009年に自民党から政権を奪取した民主党の経験不足だ。50年にわたって政権をほぼ独占してきた自民党の政治家たちが各国との間に築いた個人的なパイプを、民主党の中心人物のほとんどは持っていない。また、首相が次々と交代したことで政権は不安定化し、日本にはやり返す力がない、との印象を与えてしまっているという。
中国の経済成長と日本の不況も、地域の均衡を変えた。「かつて、アジアの国々は日本の経済・技術協力を必要としていた。その見返りとして、それらの国々は対日本外交において譲歩してきた」(寺田教授)
中途半端な民主党政権の態度によって日米関係が悪化したことも、周辺国に付け入る隙を与えた。「日本は日米同盟により守れられてきたため、領土問題はそれほど顕在化されてこなかった。しかし、昨今のギクシャクした日米関係は、中国や韓国が強気に出るきっかけになっている」と寺田教授は指摘している。
ただ、だからといって日本には慌ててまた米国に擦り寄るという単純な選択肢はないと、一橋大学(Hitotsubashi University)の加藤哲郎(Tetsuro Kato)名誉教授は忠告する。その理由は1つには米国が、自国の国益を損なう危険をはらんだ領土問題でその手を汚す気がないためだが、世界のパワーバランスが変わったことも一因だという。
「中国の存在感が大きくなってきて、日本が米国だけに頼っているのでは力が弱くなってきた」(加藤教授)
■過熱すれば軍事衝突の恐れも
野田首相は前月、尖閣諸島の防衛に自衛隊を派遣する可能性に言及したが、政府に対して何らかの行動を求める声が国内で高まる中、こうした発言に飛びつく政治家が増える可能性もある。
米ボストン大学(Boston University)のトーマス・バーガー(Thomas Berger)准教授(国際関係)は、短期的には軍事衝突は起きないだろうと分析した上で、「しかし、この地域で領土問題をめぐって市民の怒りが膨らんでいるのは、非常に気掛かりだ」と述べ、懸念も示した。
「衝突の可能性を除外することはできない。地域内での軍拡競争も既にかなり進行している」 (c)AFP/Jacques Lhuillery