フォークランド紛争から30年、海底油田めぐり再び揺れる諸島
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【4月2日 AFP】南米アルゼンチン沖フォークランド諸島(Falkland Islands、アルゼンチン名:マルビナス諸島、Islas Malvinas)の領有権を英国とアルゼンチンが争ったフォークランド紛争から、今年は30年。同諸島周辺には莫大な埋蔵量が見込める油田が存在することから、両国の間で再び緊張が高まっている。
■油田で争点は漁業から経済へ
アルゼンチン南東沖の英領フォークランド諸島の領有をめぐって1982年に英国とアルゼンチンの間で起きたこの短期間の紛争を、アルゼンチンの著名作家ホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges)は、「2人のはげ頭の男が、使うあてもない櫛(くし)を奪い合っている」とたとえた。
だが、それから16年後、周辺の海域で「黒い色の金鉱」が発見されると、新たに経済的な利害問題が降ってわくことになる。「かつての問題は漁業権だったが、これは1990年代に漁業資源を共同開発する方向で、一定の合意に至った。しかし現在の争点は石油で、これは政治と密接した産物といえる」と外交政策シンクタンクである英王立国際問題研究所(チャタムハウス、Chatham House)のビクター・ブルマートーマス(Victor Bulmer-Thomas)氏は説明する。
■原油価格の高騰で注目浴びる油田
フォークランド諸島沖の海底に眠っていた炭化水素は今から14年前、英蘭系石油大手シェル(Shell、現ロイヤル・ダッチ・シェル)の試掘によって発見された。しかし当時の原油価格は1バレル10ドルにも満たなかったため、同社は採算がとれないとみて探査を進めなかった。
しかし、その後の原油価格は上昇を続け、現在は1バレル125ドル前後にまで高騰。世界に残るわずかな未採掘油田の1つと見込まれるフォークランド諸島周辺に、5つの企業が群がった。
その先陣を切って2010年、ロックホッパー・エクスプロレーション(Rockhopper Exploration)、デザイア・ペトロリアム(Desire Petroleum)の英国系開発企業が試掘を再開。アルゼンチンを動揺させた。
これまでに5企業がフォークランド諸島周辺で試掘を実施しているが、これまでのところ大量の石油埋蔵量が確認できたのはロックホッパーが試掘した諸島北方のシーライオン(Sea Lion)油田のみだ。
米大手調査会社エジソン・インベストメント・リサーチ(Edison Investment Research、EIR)によると、ロックホッパーは推定埋蔵量4億5000万バレルのシーライオン油田の開発着手を年内に予定し、2016年までの汲み上げ開始を目指している。
一方、フォークランド海盆の南部で初めての試掘に今年着手した他の企業は、同諸島端の深海域に80億バレルの埋蔵量の発見を見込む。
■英国、自治政府、アルゼンチンそれぞれの思惑
こうした背景から、北海原油の残存埋蔵量が30億バレルと減少するなかで、英国には本土から1万2900キロも離れた小さな海外領に固執するだけの強い経済的動機がある。
英領フォークランドの自治政府も、油田が地元にもたらす経済効果に大きな期待を寄せる。EIRの試算によると、周辺の石油埋蔵量が83億バレル程度とした場合、最後の1滴を汲み上げるまでに採掘権料や税収などで合計約1800億ドル(約15兆円)の利益が同諸島にもたらされる。
その一方で、油田開発によって、第1次産業を中心とするフォークランド諸島の脆弱(ぜいじゃく)な生態系や緊密なコミュニティ社会が破壊される可能性を懸念する声もある。それでも多くの住民は、公的サービスの拡充や油田関連労働者の流入による経済効果に期待の目を向ける。加えて、油田収入を防衛費に回し、英国に完全依存した防衛から脱却したいとの政治的な目論みもある。
だが、フォークランド諸島沖での油田開発ラッシュに怒ったアルゼンチン政府は3月、諸島沖で油田探索を行っている5企業を提訴すると宣言した。これらの5企業は英国、またはフォークランド諸島の政庁所在地スタンリー(Stanley)を拠点としている。
しかし、チャタムハウスのブルマートーマス氏は、これら5企業がアルゼンチン側の脅しに本気で慌てることはないとみている。こうした脅しはアルゼンチンで操業する企業にしか適用できないからだ。
ブルマートーマス氏によれば、諸島周辺の石油埋蔵量が「採算性に見合う石油輸出が見込める十分な量であることは、かなり現実的」だ。「だが、いったん石油の生産、売買が始まってしまえば、アルゼンチンが(諸島の)領有権を主張することは極めて難しくなるだろう。だからアルゼンチンは、可能な限りあらゆる手を使って、商業採掘を阻止しようとしているのだ」と、ブルマートーマス氏は結んだ。(c) AFP/Julien Girault
■油田で争点は漁業から経済へ
アルゼンチン南東沖の英領フォークランド諸島の領有をめぐって1982年に英国とアルゼンチンの間で起きたこの短期間の紛争を、アルゼンチンの著名作家ホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges)は、「2人のはげ頭の男が、使うあてもない櫛(くし)を奪い合っている」とたとえた。
だが、それから16年後、周辺の海域で「黒い色の金鉱」が発見されると、新たに経済的な利害問題が降ってわくことになる。「かつての問題は漁業権だったが、これは1990年代に漁業資源を共同開発する方向で、一定の合意に至った。しかし現在の争点は石油で、これは政治と密接した産物といえる」と外交政策シンクタンクである英王立国際問題研究所(チャタムハウス、Chatham House)のビクター・ブルマートーマス(Victor Bulmer-Thomas)氏は説明する。
■原油価格の高騰で注目浴びる油田
フォークランド諸島沖の海底に眠っていた炭化水素は今から14年前、英蘭系石油大手シェル(Shell、現ロイヤル・ダッチ・シェル)の試掘によって発見された。しかし当時の原油価格は1バレル10ドルにも満たなかったため、同社は採算がとれないとみて探査を進めなかった。
しかし、その後の原油価格は上昇を続け、現在は1バレル125ドル前後にまで高騰。世界に残るわずかな未採掘油田の1つと見込まれるフォークランド諸島周辺に、5つの企業が群がった。
その先陣を切って2010年、ロックホッパー・エクスプロレーション(Rockhopper Exploration)、デザイア・ペトロリアム(Desire Petroleum)の英国系開発企業が試掘を再開。アルゼンチンを動揺させた。
これまでに5企業がフォークランド諸島周辺で試掘を実施しているが、これまでのところ大量の石油埋蔵量が確認できたのはロックホッパーが試掘した諸島北方のシーライオン(Sea Lion)油田のみだ。
米大手調査会社エジソン・インベストメント・リサーチ(Edison Investment Research、EIR)によると、ロックホッパーは推定埋蔵量4億5000万バレルのシーライオン油田の開発着手を年内に予定し、2016年までの汲み上げ開始を目指している。
一方、フォークランド海盆の南部で初めての試掘に今年着手した他の企業は、同諸島端の深海域に80億バレルの埋蔵量の発見を見込む。
■英国、自治政府、アルゼンチンそれぞれの思惑
こうした背景から、北海原油の残存埋蔵量が30億バレルと減少するなかで、英国には本土から1万2900キロも離れた小さな海外領に固執するだけの強い経済的動機がある。
英領フォークランドの自治政府も、油田が地元にもたらす経済効果に大きな期待を寄せる。EIRの試算によると、周辺の石油埋蔵量が83億バレル程度とした場合、最後の1滴を汲み上げるまでに採掘権料や税収などで合計約1800億ドル(約15兆円)の利益が同諸島にもたらされる。
その一方で、油田開発によって、第1次産業を中心とするフォークランド諸島の脆弱(ぜいじゃく)な生態系や緊密なコミュニティ社会が破壊される可能性を懸念する声もある。それでも多くの住民は、公的サービスの拡充や油田関連労働者の流入による経済効果に期待の目を向ける。加えて、油田収入を防衛費に回し、英国に完全依存した防衛から脱却したいとの政治的な目論みもある。
だが、フォークランド諸島沖での油田開発ラッシュに怒ったアルゼンチン政府は3月、諸島沖で油田探索を行っている5企業を提訴すると宣言した。これらの5企業は英国、またはフォークランド諸島の政庁所在地スタンリー(Stanley)を拠点としている。
しかし、チャタムハウスのブルマートーマス氏は、これら5企業がアルゼンチン側の脅しに本気で慌てることはないとみている。こうした脅しはアルゼンチンで操業する企業にしか適用できないからだ。
ブルマートーマス氏によれば、諸島周辺の石油埋蔵量が「採算性に見合う石油輸出が見込める十分な量であることは、かなり現実的」だ。「だが、いったん石油の生産、売買が始まってしまえば、アルゼンチンが(諸島の)領有権を主張することは極めて難しくなるだろう。だからアルゼンチンは、可能な限りあらゆる手を使って、商業採掘を阻止しようとしているのだ」と、ブルマートーマス氏は結んだ。(c) AFP/Julien Girault