プーチン首相の「タフガイ」演出、もう古くさい?大統領選前にかすむ効力
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【2月27日 AFP】そこには、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)首相のトレードマークたる「タフガイ」を演出するためのあらゆる要素が備わっていた――スピード、危険、そして興奮。だが、プーチン首相を乗せた2人乗りボブスレーはゴールまで猛スピードで駆け抜ける代わりに、なんとも恥ずかしいことに、そしてある意味危険なことに、傾斜を上り切る速度を得られずスタート地点まで逆走してしまった。
2月16日のこの出来事について、ロシア政府は「1回目、首相を乗せたボブスレーはゴールまで到達しなかった。2回目には成功し、ウラジーミル・プーチンはゴールにたどり着いた」と簡潔な声明を発表しただけだった。けれどそれは、3月4日の大統領選で返り咲きを狙うプーチン氏が12年間にわたるロシア統治で駆使してきた「タフガイ」演出が、かつての魔法めいた効力を既に失ってしまったことを示す象徴的な出来事だった。
■色あせる「タフガイ」
プーチン氏は大統領在任8年間と首相在任4年間で、紛争中のチェチェン共和国に戦闘機で乗り付け、ホッキョクグマを優しくなで、トラに麻酔銃を撃ち込み、F1用レースカーに乗り、小型潜水艇で世界最深の湖底に潜り、上半身裸でシベリア(Siberia)地方を乗馬した。
しかし、プーチン氏に対する抗議運動が国内各地でわき起こり、本人も60歳になろうとする今、同氏の一挙一動にロシアのインターネット・ユーザーは批判的な検証の目を向けており、「タフガイ」パフォーマンスは効力を失いつつある。
露シンクタンクCPI(Centre for Political Technologies)の、オルガ・メフォジェワ(Olga Mefodyeva)氏はこう語る。「プーチン氏は、カリスマ性と支配的な男らしさを全面に押し出してきた。だが、このイメージはだんだん古くさくなり、現実と接点を失って惰性と化した。過去の業績を生かそうにも、新たな創造性がなければ、何もかもが繰り返しと再生産になってしまう」
■「人生は危険」とうそぶく
プーチン氏の視察は何の滞りもなく終わるのが常だったが、そのタブーが最初に破られたのは2010年、ロックミュージシャンのユーリ・シェフチュク(Yuri Shevchuk)氏がチャリティーイベントで「抗議する有権者が増えている」ことについてプーチン氏に議論を挑んだときだったかもしれない。
とはいえ、プーチン氏はその年の夏も、忠実な報道陣を従えてシベリアと極東地方で異例の休暇を取り、ゴムボートでクジラ撃ちを行ったり、黄色のラーダ(Lada)車でシベリア横断の旅に出たりした。
記者の1人がその旅の途中、プーチン氏に尋ねた。「ウラジーミル・ウラジーミロビッチ(・プーチン)氏よ、なぜこのような過激な行動を?危険は承知なのでしょう?」
プーチン氏はこう返した。「生きているということ全般が危険なのだよ」
■「やらせ演出」「格闘技試合でブーイング」
しかし前年の夏は、パフォーマンスが裏目に出てしまった。ロシア南部の海底遺跡を探査したプーチン氏は、奇跡的に古代ギリシャのつぼを「発見」し、ウェットスーツ姿で岸に戻るなり記者団に「宝だ!」と告げた。ところが後になって、つぼはそこに意図的に置かれたものだったことをプーチン首相の報道官が認め、反プーチン派のブロガーたちは一斉にプーチン氏に嘲笑を浴びせた。言葉あそびを使ったあるスローガンは「われわれは正直なつぼ(選挙)を要求する!」というものだった。
11月20日には、モスクワ(Moscow)で行われた総合格闘技の試合で、勝利者を祝福するために登場したプーチン氏が自分の支持層と信じていた満員の格闘技ファンからブーイングを浴びせられた。この突発的な出来事は国営テレビで放映されてしまい、今では12月4日の総選挙後の抗議デモのさきがけとなったと見られている。
■過去のイメージ引きずるプーチン氏
元ロシア政府顧問で、「効果的な政策のための基金(Fund for Effective Policy)」を率いるグレブ・パブロフスキー(Gleb Pavlovsky)氏は、プーチン政権初期は前任のボリス・エリツィン(Boris Yeltsin)元大統領の変人ぶりとの比較から、プーチン氏の行動派のイメージが好意的に受け止められていたと指摘する。「当時は強い権力を求める声、強く活動的な大統領の姿を求める声があった。プーチン氏は慎重に、かつ意図的にこの欲望を満たしたのだ」
「今もプーチン氏がこの手法を続けているのは、過去にそれが成功をもたらし、また自分がそのイメージを気に入っているからだ。もはや人々は喜んでいない。だが、彼はその点に注意を払っていないのだ」と、パブロフスキー氏は分析した。(c)AFP/Stuart Williams
【動画】
・プーチン首相の「タフガイ」ぶりを示すクリップ集(YouTube/AFPBB News公式チャンネル)
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