【2月12日 AFP】中国共産党の次期最高指導部入りを目指す重慶(Chongqing)市のトップ、薄熙来(Bo Xilai)党委員会書記の側近である前公安局長が、米国へ亡命を図ったとのうわさが広がり、共産党指導部周辺で権力闘争が起こっているのではないかとの憶測が出ている。

 北京(Beijing)の米大使館は9日、重慶市の前公安局長の王立軍(Wang Lijun)副市長(52)が、四川(Sichuan)省成都(Chengdu)にある米総領事館を訪れたことを認めたが、王副市長は「会合のために訪れ、自らの意思で」総領事館を去ったと述べたのみで、副市長が米国への亡命を求めたという説については触れなかった。

 しかし国営新華社(Xinhua)通信は、「王立軍重慶市副市長が中国南西部にある米総領事館に立ち入り、そこに1日ほど留まっていた件について」当局が調査中だと報じた。 

■指導部入り狙う薄熙来氏の側近、失脚か

 中国共産党は今年、最高指導部にあたる政治局常務委員会9人のうち、胡錦濤(Hu Jintao)国家主席を含む7人が退任する予定。薄熙来氏はここで常務委員入りを目指しているが、今回の出来事が昇進の妨げになる可能性も出てきた。

 王氏は、薄氏の下で重慶市の公安局長として、同市高官数十人の逮捕も含めた汚職一掃キャンペーンを行い評価を高めた。しかし、重慶市当局は前々週、王氏を公安局長から解任。続けて8日には、ストレスや過労が原因で王氏が「休暇療養する」と異例の発表をした。病気療養は、中国共産党内で失脚を婉曲的に言い表すときによく使われる言葉だ。

 香港中文大学(Chinese University of Hong Kong)の中国研究家、ウィリー・ラム(Willy Lam)氏はAFPの取材に対し、「王氏の解任は(共産党)上層部の内部抗争の結果である可能性が最も高い」と答えた。「この件は、薄氏の(常務委員への指名)チャンスに障害となる。中国共産党には、各行政区のトップは自分の部下の不品行について責任を取らなければいけないという伝統的な原則がある」と言う。

 今週には次期国家主席と目されている習近平(Xi Jinping)国家副主席の訪米を控える中、崔天凱(Cui Tiankai)外務次官は9日、報道陣に対し、王氏の米総領事館訪問についてコメントを拒否し、問題は既に「比較的円滑に解決した」とだけ述べた。

■「病気療養」発表にネットで亡命説広がる

 しかし、中国で人気のマイクロブログなどでは、所在が不明となっている王氏の動機や行方について、さまざまな憶測が流れている。国営英字紙・環球時報(Global Times)によると、市当局による王氏病気療養の声明は、発表後1時間以内に3万回も転載され、内部抗争への国民の関心の高さを明らかにした。

 中国のインターネット検閲当局は8日に、王氏の氏名による検索や王氏に関するコンテンツの閲覧を遮断したが、9日には、まだ王氏の米総領事館訪問が国営メディアで報じられていないうちから、マイクロブログでは広範囲に情報が出回っていた。王氏亡命計画説は、7日夜に米総領事館の周りに警察車両が多数急行したとの報道から、湧き上がったとみられる。

 薄熙来氏は元副首相の息子で、中国共産党の「プリンス」とみなされているが、共産主義となじまない縁故主義や世襲を否定する勢力は、薄氏の最高指導部入りに反対している。

 一方、薄氏が指揮した重慶市の汚職や組織犯罪の摘発は一般に非常に高く評価されており、市民の97%が「安心感を持てるようになった」「外を歩くのが恐くなくなった」などと答えている。

 香港中文大学のラム氏は「薄氏は目標を達成するためならば、どんなリスクもいとわないマキャベリストだと思われている。重慶市での革命歌の奨励キャンペーンや、市上層部の汚職摘発なども、自分自身の政治的地位を有利にするための駆け引きとみられている」と分析している。(c)AFP/Robert Saiget