【1月10日 AFP】台湾の総統選は14日の投開票まで残すところ1週間を切った。再選を目指す国民党(KuomintangKMT)の馬英九(Ma Ying-jeou)総統(61)は、中国本土との関係を劇的に改善させたが、今回の選挙で当落の鍵を握るのは経済問題となりそうだ。

 台湾史上初の女性総統を目指して馬総統に挑む野党・民主進歩党(民進党、Democratic Progressive PartyDPP)の蔡英文(Tsai Ing-wen)主席(56)は、富の公平な分配を掲げ、それなりの支持を集めている。

 台北(Taipei)にある中国文化大学(Chinese Culture University)の政治学者、蔡瑋(George Tsai)氏は「多くの台湾人、特に低所得者層にとって、経済は突出して重要なテーマだ」と分析する。「こうした人々は、中国本土との関係改善や外交問題にはあまり関心がない」

■台湾人の関心は「中国」から「経済」へ

 台湾政治は歴史的に、隣り合う大国・中国と緊密な関係を促進したい国民党と、独立を志向する民進党との間で争われ、対中国政策が決定的な争点となってきた。だが、台湾人の大多数が中国との関係はある程度避けられないと考えている現在、今週末の総統選で「対中国政策」が民意を左右することはないとみられる。

「対中関係が台湾の重要課題であることに変わりはないが、重要度は緩やかに低下している」と、香港城市大学(City University of Hong Kong)の鄭宇碩(Joseph Cheng)教授(政治学)は指摘する。「おそらく、台湾の人民は(中国との)経済統合が進んでいることを認識しており、事を荒立てたくないのだろう」

 対中問題への有権者の無関心さは、中国と貿易自由化に向けた経済協定を結ぶなど対中関係改善を追い風に2期目を狙う馬総統にとっては痛手だ。最新の世論調査でも、馬氏の支持率は蔡氏をわずか3%リードしているにすぎない。3%は許容誤差の範囲内だ。

■馬陣営の泣き所

 2011年7~9月期の台湾経済は前年同期比3.37%増で、主要貿易相手の中国の活況に牽引され24年来での最高値を記録した2010年の10.88%からは低下した。その大きな要因は世界経済の鈍化による。しかし馬陣営には不満がくすぶる。「あらゆる統計は台湾経済の好調を示しているのに、メディアや国民はまるで無視している」と国民党の金溥聡(King Pu-tsung)秘書長は報道陣らに不満を示している。

 だが有権者の目は、台湾で拡大する所得格差の是正対策が国民党の政策には欠如している点に向けられている。

 さらに馬総統に追い討ちをかけるのが、元国民党の重鎮で親民党から立候補した宋楚瑜(Soong Chu-yu)主席の存在だ。支持率では馬総統、蔡候補に大きく差をつけられているが、馬総統の支持層が宋候補に流れる可能性がある。

 これら複数の要因が積み重なり、総統選の行方は予断を許さない状況だ。(c)AFP/Peter Harmsen