【10月5日 AFP】テロ容疑者を追跡する中で、米中央情報局(CIA)の指揮する軍事作戦が増えている。元幹部や専門家からは、CIAの伝統である諜報・情報収集活動が脇へ追いやられているとの指摘があがっている。

 5月に米海軍特殊部隊SEALsがCIAの指揮の下、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)の最高指導者、ウサマ・ビンラディン(Osama bin Laden)容疑者を殺害した作戦は、2001年米同時多発テロ事件以降のCIAの「軍事化」の象徴と言える。

 9月30日にはイエメンで、米国籍を持つアルカイダ系組織の幹部アンワル・アウラキ(Anwar al-Awlaqi)師が空爆により殺害されたが、ホワイトハウス(White House)はCIAの無人機などによる攻撃だという報道を認めていないため、作戦の実態はベールに覆われている。

■軍との共同作戦、最終権限はCIA

 CIAの活動の中で、秘密工作は何も目新しいものではない。しかし、米同時多発テロが引き金となり、この10年の間にCIAの準軍組織部門は過去に例がないほどの拡大を遂げ、無人機による空爆と「特定標的殺害」(ターゲットキリング)を軸とする作戦をパキスタンからソマリアに至る各地で展開している。

 情報活動から軍事作戦重視への変化は、第2次世界大戦中の戦略諜報局(OSS)にCIAの起源があることを想起させる。2006~2009年にCIA長官を務めたマイケル・ヘイデン(Michael Hayden)氏は「今以上に、直接の祖先であるOSSとCIAがそっくりだったことはない」と語る。

 米統合特殊作戦軍(Joint Special Operations Command)と共同して行われることが多い対テロ作戦について、米高官たちはアルカイダに打撃を与え、大きな成功を収めたとみなしている。「我々が彼らを殺すペースのほうが、彼らが要員を育てるよりも早い」と称賛する元高官もいる。

 ビンラディン襲撃やその他の秘密作戦において、統合特殊作戦軍は実戦部隊に対する戦術統制を行使することが多いが、最終権限を握っているのはCIAで、それによって米政府は法的な「否認権」を手にすることができる。

 CIAでは3000人規模の要員をアフガニスタンでの対テロ部隊に配置しており、その新しい世代が標的襲撃作戦に加わってきたところだ。国家安全保障局(National Security AgencyNSA)など他の情報機関も、アフガニスタン駐留軍や各地の軍特殊部隊への支援を強化している。

■兵士とスパイ間の「共通文化」の出現

 ベルギーのシンクタンク、欧州戦略情報・安全保障センター(ESISC) のラファエル・ラモス(Raphael Ramos)研究員は、ベトナム戦争時代とは異なり、戦闘地域にCIAのチームを動員して特殊部隊と緊密に連携させるやり方によって、兵士とスパイの間に「共通の文化」も育まれていると指摘する。

 米国民の多くはアルカイダ追跡作戦を強力に支持した。しかし人権団体などは、軍事と情報活動の境界が曖昧になることによって、公の目から隠れて展開される法的根拠の薄い作戦への道が開ける恐れがあると警告する。

 政府高官らは、議会と大統領に対するCIAの説明責任は変わらないと強調するが、元高官や専門家らは、他の重要任務がおろそかになる可能性を指摘している。元CIA幹部の1人は「『テロとの戦い』における要求があまりに多く、しかも重要で迅速性も必要であるとすれば、少し油断しただけで他の任務に支障が出ることもありうる」と懸念する。

 先ごろ就任したデービッド・ペトレアス(David Petraeus)CIA新長官は、退役直前にはアフガニスタン駐留米軍司令官を務めた元陸軍大将だ。ノースカロライナ大学(University of North Carolina)のリチャード・コーン(Richard Kohn)名誉教授(歴史学)は、CIAが劇的な襲撃作戦にばかり力をとられ、重要な諜報活動や情報分析を怠ることのないよう、ペトレアス長官は注意する必要があると釘を刺す。

 コーン名誉教授はこの春、中東や北アフリカで起きた「アラブの春」をCIAが事前に予測できなかったばかりか、事態が起きた後もしばらくの間はその意味するところを十分に把握できなかったと指摘し、この10年間で「重要な戦略的情報機能、分析、長期予想、これらすべての重要性が軽視されるようになった。それこそ真に懸念すべき点だと思う。決定的に重要なことが世界で起こっているのに気づかず、米国が不意を突かれることこそを懸念すべきだ」と述べた。(c)AFP/Dan De Luce