【8月31日 AFP】アラブ首長国連邦(UAE)では来る9月24日、史上2回目の連邦評議会選挙が行われるが、「アラブの春」と呼ばれる民衆蜂起が近隣諸国の政権を揺るがす中、石油資源に恵まれ、急激な変化を望む国民がほとんどいないUAEの民主化の進展は遅い。

 UAEの連邦評議会は、諮問機関としての役割しか持たない。政府に勧告する権限はあるが立法権はなく、連邦内の7首長国の首長から成る最高意志決定機関、最高評議会による立法を阻止することはできない。

 その連邦評議会の評議員40人のうち半数を選出する選挙には今回、469人が立候補を届け出ており、うち85人が女性だ。選挙人は、連邦内にある7つの首長国の首長によって任命されるが、任命基準は完全に明確になっているわけではない。しかもUAEの指導層は、国民の政治参加は急がないという姿勢を明確にしている。
 
 しかし、前回2006年の選挙時には約6000人だった選挙人名簿は今回、約12万9000人に拡大された。「アラブの春」によってチュニジアやエジプトで政権が倒された情勢を受け、今回の評議会選挙の選挙人を増やした措置だった。

 任命された選挙人のうち35%は30歳以下、また約半数は女性だった。「『アラブの春』の原動力となった若年層(の選挙人)を増やしたのは賢い策だ。UAEや湾岸地域も同じアラブ世界の一員だから、そうした(蜂起の)動きと無縁とは言えない」と、政治学教授のアブドルハレク・アブドラ(Abdulkhaleq Abdullah)氏は評価する。

「5年の間に、すべてが任命制だった連邦評議会の半分を選挙で選出するようになり、選挙がまったくなかったところへ、国民の3分の1が参加する投票を導入した。順調な歩みだ」とコラムニストのモハメド・ハマディ(Mohammed al-Hammadi)氏も評価する。

■「アラブの小春日和」?

 しかし、ドーハ(Doha)にあるアラブセンター(Arab Centre)で世論研究プログラムを率いるファレス・ブライザト(Fares Braizat)氏は、「全国民が参加する普通選挙、議員制度を通じた公職にある人のアカウンタビリティという民主的な政治プロセスにはまだ遠い。アラブ世界で起きている変化の空気に対応した動きだが、この地域全体の機運から生まれている期待を満たすものではない。単なる表面的な修正だ」と批判する。

 ブライザト氏は、UAEでは裕福な国家が大半の市民に快適な暮らしを提供し、そのため、より広い政治参加を要求する機運が抑えられていると言う。UAEは一人当たりの国民所得で世界のトップクラスに入る。人口のうち自国民は95万人程度で、600~800万人と推定される外国人が人口の大部分を占める。

 1971年に英国から独立した後に首長国を束ねたアブダビ首長国のナハヤン家が現在もUAEを支配し、これに抗する動きはほとんどない。前述のアブドラ氏は「UAEで劇的な変化を望んでいる者がいるとは思わない。(大多数の人びとは)現在の首長たちの正統性に異議を唱えはしないだろう」と言う。

 この3月には知識人や運動家約130人が、ハリファ・ビン・ザイド・ナハヤン(Khalifa bin Zayed Al-Nahayan)大統領に対し、普通選挙と連邦評議会への立法権付与などを求める請願を行った。これに絡み、不敬罪などの容疑で活動家5人が起訴されており、無罪を主張しているが、アブドラ氏は「この国の(人びとの)要求は非常に慎ましい。民主化を求める勢いは最低限でしかなく、政府の遅々たるアプローチに納得してしまっている。他のアラブ諸国の革命的な雰囲気の対極にある」と述べた。(c)AFP/Ali Khalil