【8月30日 AFP】菅直人(Naoto Kan)前首相の後継者を選んだ29日の民主党代表選を前に、東日本大震災の被災地からは、国の中央で繰り広げられている権力闘争に怒りの声が広がっていた。

 震災から半年近くが経つが、何万人もがいまだ混み合った避難所や仮設住宅に暮らし、失った家族を悼み、放射能におびえ、家も職もなく、はっきりした未来も描けずに過ごしている。

 政府の震災対応は激しい批判を招き、菅前首相が退陣表明を余儀なくされると、与党・民主党(Democratic Party of JapanDPJ)では首相の後釜を狙う政治家たちが躍起となって主導権争いを開始した。

■「なんだか他の国のことを見ているみたい」

 その東京から北東へ420キロ離れた岩手県大船渡市。巨大津波で家を流され、仮設住宅に暮らしているタキタ・イクコさん(60)は電話インタビューで「向こうではなにをやっているんだか・・・呆れてしまう。なんだか他の国のことを見ているみたい」と語った。

 約半世紀に及んだ自民党(Liberal Democratic PartyLDP)中心の保守支配から、「国民の生活第一」という新たな政治スタイルを掲げて政権をもぎ取った民主党だったが、タキタさんは「誰が次の総理になっても同じでしょ」と答え、民主党への期待はなくしたと言う。民主党の新代表は、この5年で6人目の日本の首相となる。以前から続く「回転ドア内閣」の伝統は健在で、約12か月で涙ながらに総辞職するのが法則となりつつある。

 東北地方を中心とする大震災の被災地では、政府の責任による生活再建支援を求める多くの声があがっている。津波が残したがれきの山はおおかた片付けられ、後には何もない泥の更地が広がっている。急いで修復された港から漁船が出港を再開し、マグロなど今秋初の水揚げを行っているが、完全な回復には数年がかかると見込まれており、避難を余儀なくされた地域には沈鬱な雰囲気が漂っている。人びとは今も余震に耐え、現在も続く原発危機に不安を感じている。

■「早く原発を止めて、早く家に帰してほしい」

「まだ暗闇で立ち尽くしている感じがする」とイクハシ・アキオさん(61)は語る。自宅は東京電力(TEPCO)福島第1原子力発電所から3キロ圏内。県内西部の会津へ避難した。震災後は職を失い、被災のストレスから結婚生活にもひびが入り、妻とも別居した。「悪いことは何ひとつしていないのに、全てを失った」。首相交代劇については「菅総理が辞めてどうなるの?」と問う。「なるようにしかならんでしょ」

 福島の畜産家サクマ・シンジさん(61)は、被災地の現実から政治家たちがあまりにも遠く、切り離されていることに怒りをあらわにした。「とんでもない。勝手に頭をすえかえている場合か?」。サクマさんは放射能汚染の懸念から飼っていた牛の殺処分を強いられた。「誰が総理になっても関係ない。早く原発を止めて、早く家に帰してほしい。これはここにいるみんなの声だ」(c)AFP/Shingo Ito