【6月20日 AFP】中東から北アフリカにかけたアラブ全域が民衆蜂起の波にのまれる中、周辺諸国の独裁政権とは異なり、シリアのアサド政権の基盤はいまだ揺らいでいない――しかし今後も、政権が嵐を切り抜け、生き残れるかどうかに関しては、専門家の予測は分かれている。

■構造的に堅固なシリアの政権中枢

 周辺国のチュニジア、エジプト、イエメン、リビアでは、民衆蜂起からわずか数週間で反体制の動きが顕在化したが、シリアでは反体制デモへの残虐な弾圧や、それに対する国際社会の非難にもかかわらず、アサド政権の最上層部にも治安部隊内部にも、離反の動きや亀裂は確認できない。

 専門家たちはその理由について、シリアはバッシャール・アサド(Bashar al-Assad)大統領1人による個人独裁ではなく、政権中枢を取り巻く側近集団による寡頭制独裁だからだと分析する。

 英ロンドン(London)に拠点を置くリスク分析専門会社エクスクルーシブ・アナリシス(Exclusive Analysis)によると、政権中枢にはアサド大統領の親族のみならず、大統領と同盟関係にある軍や治安機関の上層部も含まれており、政府の重要な決定はこの側近たちとの協議を通じて下される。

 1970年から30年間続いた父、ハフェズ・アサド(Hafez al-Assad)前大統領から権力を引き継いだ現大統領を、親族とこの側近集団が支え、さらにアサド家の出自である同国のイスラム教少数派、アラウィ派(Alawite)が支持基盤となっている。このため「シリア政治の根幹には、少数派のアラウィ派が、バース党や軍・治安機関を通じて政治と経済を支配する、との不文律があり、大々的な武力行使によるデモ鎮圧にも、エリート層内では大きな異論が出ない」という。

 英エディンバラ大学(University of Edinburgh)で9月から教鞭を取るシリア情勢の専門家、トマス・ピエレ(Thomas Pierret)氏も「側近たちはみな、この独裁政権に改革などありえないことを分かっている。独裁が強力な制度に基づく場合なら改革も可能だが、世襲制ではそれは望めない」と同感する。

■政権は国内少数派、抗議運動が高じれば収拾不可にも

 しかし、政権中枢に今後も分裂が生じないかどうかについては、専門家の意見は分かれる。

 エクスクルーシブ・アナリシスは、現在までのところ彼らの政権掌握に揺るぎはなく、軍にも離反の動きはほぼ見られないが、「現状をいつまでも維持できるわけはなく、デモが収束するか、さもなくば国家が崩壊するかだ」と注視する。

 現在、政府はデモの鎮圧に、政権への忠誠度が高いアラウィ派の治安部隊に加え、国内多数派であるスンニ派の予備役部隊も動員している。混乱が長引けば、さらにスンニ派部隊に依存せざるをえなくなる。スンニ派地域に制裁を加えるためにスンニ派部隊を動員すれば当然、逃亡兵や離反者が出、軍の分裂をも招きかねない。

 こうした勢力図の中で、政権は支配力を失いつつあると指摘するのは、独立系研究機関のネットワーク「アラブ改革イニシアチブ(Arab Reform Initiative)」のBasma Kodmani所長だ。「治安部隊を各地に一斉動員するには、限界がある。既に形勢は不利になりつつある。個々のデモを鎮圧しようとしているからだ。だからこそ反体制派は、できるだけたくさんのデモを起こそうとしているのだ」

 この点について、前出のピエレ氏は「理論上で言えば、デモの参加者に強い意志さえあれば、軍の限界を突き破ることができる。けれど、そのためには、もっとずっと運動が大きくなる必要がある」と述べる。

■過ぎてしまった引き返し可能地点

 一方、ドイツ国際安全保障研究所(German Institute for International and Security Affairs)のフォルカー・ペルテス(Volker Perthes)所長は、政権側に鎮圧をあきらめる気配は現在全くないようだと指摘する。「政権側は、混乱を長引かせたいようにさえ見える。支持者は大勢いる。逆に反体制派は弱く、国内外で組織を作り始めたばかりだ」

 しかしペルテス氏は「同時に、後戻りできる地点は過ぎてしまったようにも見える。あまりにも多くの血が流されてしまった」と語った。

 人権団体「シリア人権監視団(Syrian Observatory for Human Rights)」によると、シリアでは反体制デモが本格化した3月中旬以降これまでに、民間人1309人、治安部隊341人が死亡した。また、1万人が身柄を拘束され、1万5000人が周辺国のトルコやレバノンへ国外避難している。(c)AFP