英連立与党に崩壊危機、選挙制度見直しの国民投票
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【5月6日 AFP】英国で5日、下院議会選挙の選挙制度を、小政党が議席を得やすくなる「順位指定投票(Alternative Vote、AV)」制に変更すべきかどうかを問う国民投票が実施された。開票結果は6日中に明らかになるが、否決される見通しが高く、連立与党内の亀裂が深まるのは避けられない情勢だ。
AV制は、有権者が候補者に順位をつけて投票する選挙方式。投票総数の過半数を得た候補がいない場合は、1位の票が最も少なかった候補の2位票を他候補に分配し、得票率が50%を超える候補が出るまでこれを繰り返していく方法。
AV制への移行を問う国民投票は、前年の総選挙で第3党となった自由民主党が、第1党の保守党と連立政権を組む際の条件としていた。しかし、国民投票の実施は受け入れたものの、保守党としては、長年の2大政党制を支えてきた従来の単純小選挙区制を維持したいのが本音だ。このため、与党内で激しい政治キャンペーンが繰り広げられ、連立崩壊の懸念が出ている。
事前の世論調査結果では、保守党党首のデービッド・キャメロン(David Cameron)首相が主導した反AV制キャンペーンへの支持が圧倒的で、AV制を推奨する自民党党首、ニック・クレッグ(Nick Clegg)副首相は大敗を喫する公算が大きい。
しかも、英王室のロイヤルウエディングや国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)のウサマ・ビンラディン(Osama bin Laden)容疑者殺害のニュースに挟まれ、国民投票への国民の関心はまったく盛り上がらなかった。投票は5日午前7時から午後10時(日本時間5日午後3時~6日午前7時)まで行われたが、首都ロンドン(London)市内でさえ、足を運ぶ人がほとんど見られない投票所もあった。
■保守・自民の非難合戦、連立に亀裂
国民の関心が欠如する中で、ニュースの見出しは連立与党内で激化する舌戦に集中した。
大々的に反AV制キャンペーンを主導したのはキャメロン首相だ。英紙デーリー・メール(Daily Mail)への寄稿で、「二流の選挙制度に、あっさりと移行してはならない。そんなことになれば、わが国の民主主義は永遠に損なわれてしまう」と主張し、AV制に「ノー」を突きつけるよう国民に訴えた。
これに対し、AV制に賛成する自民党のキャンペーンは、映画『英国王のスピーチ(The King's Speech)』でアカデミー賞(Academy Awards)主演男優賞に輝いた俳優コリン・ファース(Colin Firth)さんら数々のセレブからの応援を得た。英国の政治制度に変革をもたらすとAV制を熱心に推奨したクレッグ副首相だが、地元である北イングランド・シェフィールド(Sheffield)の選挙区ですら支持を集めることはできなかった。
一方、元自民党党首のパディ・アッシュダウン(Paddy Ashdown)氏は、6日の英紙ガーディアン(Guardian)紙面でキャメロン首相を酷評。「歴代の英首相は皆、政治的キャンペーンから一歩引いた立場を守ってきた。だが、彼(キャメロン首相)はまったく自分とキャンペーンとを切り離す気がなかった。これには、大いに失望した」と述べた。
同じく自民党のクリス・ヒューン(Chris Huhne)エネルギー・気候変動相も、保守党の反AV制キャンペーンを、ナチス・ドイツ(Nazi)のヨーゼフ・ゲッベルス(Joseph Goebbels)宣伝相が使ったプロパガンダ手法になぞらえて批判している。(c)AFP/Danny Kemp