【2月28日 AFP】反体制派が勢いを強めるリビアで、最高指導者ムアマル・カダフィ(Moamer Kadhafi)大佐による独裁体制が終焉(しゅうえん)を迎えれば、国は体制移行期に入る。若者たちやオイルマネーで潤った富裕層は自由と民主主義を求めているが、リビアは統治機構がぜい弱で国家としての結束も弱いため、体制の移行には多くの困難が待ちかまえている。

 リビアはエジプトやチュニジアとは異なる、と指摘するのは、作家で政治コンサルタントのハリル・マタル(Khalil Matar)氏だ。1998年に英スコットランド(Scotland)ロッカビー(Lockerbie)上空で起きたパンアメリカン(Pan Am)航空103便爆破事件の犯人を分析した『Lockerbie and Libya(ロッカビーとリビア)』などの著書があるマタル氏は、リビアはイエメンやペルシャ湾周辺の君主国などと同じ「極端な事例」だと指摘する。

■部族への高い帰属意識

 マタル氏によると、リビアにおける東部、西部、南部の区分は、建国のはるか以前から存在する。そこでは、「部族間の結束が何よりも重要」だという。「部族的な結束が基盤になっている点で、エジプトやチュニジアとはまったく違う。異なる部族同士がどこまで結束できるかがポイントになる」

 米シンクタンク、外交問題評議会(Council on Foreign RelationsCFR)の中東専門家、ロバート・ダニン(Robert Danin)氏はCFRのウェブサイトに、「カダフィ大佐の退場は、悲しむ者こそ少数ながら、非常に大きな権力の空白を生み出すだろう。中央集権化が進んでおらず、国民意識が低くて部族や仲間への帰属意識が高いリビアという国を、何が1つにつなぎとめられるのか、まるで分からない」と書いた。

■ぜい弱な統治機構

 カダフィ大佐が42年間の独裁で意図的に行ってきた統治機構の不在も、大きな障壁だ。

「チュニジアとエジプトにも独裁者がいた。しかし両国には、憲法があり、議会があり、選挙を行い、うわべだけとはいえ民主主義があった」と、リビア人権連盟(Libyan League for Human Rights)の広報担当者は語る。「リビアにとっては、これらすべてが初めてのことだ。その事実が、移行をより困難にしている」

■新世代のグローバルな若者たちがカギ

 一方、こうした指摘は「根拠のない懸念」だと一蹴(いっしゅう)する専門家もいる。

 ロンドン(London)を拠点に活動するアルジェリア人弁護士、Saad Djebbar氏は、リビアの首都トリポリ(Tripoli)や東部ベンガジ(Benghazi)で抗議集会を開き、デモ行進をした若者たちが、エジプトやチュニジアの若者たちと同じく、米SNSフェイスブック(Facebook)や米マイクロブログ・ツイッター(Twitter)でつながっていた点に注目する。

「これらの若者世代は、すでに世界秩序(universal order)の一員となっている。この世界秩序の下では、人びとは法の秩序、開放された社会(オープンソサエティー)、良き統治(グッドガバナンス)を尊重することを求める。彼ら(若者たち)は衛星テレビを視聴し、バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領がいかにして大統領になったのかを知り、人びとが恐怖を感じずに声を上げ、何の心配もなく集会を開いている様子を知っているのだ」

 カダフィ大佐の失脚によってリビアが複数の小国に分裂するとの予測もあるが、Djebbar氏は、リビア東部のデモで「リビアは1つの部族、1つの国家」とのスローガンが掲げられていたことを指摘した。

■「カダフィ打倒」で国民意識生まれるか

 英誌エコノミスト(Economist)は、25日付の社説で「カダフィ大佐失脚後も、リビアが混乱し、暴力の横行する場所であり続ける可能性は高い」とする一方で、「とはいえ、リビアは資金が潤沢で、外貨準備高のみでも1400億ドル(約11兆4000億円)近い。国外に脱出していた有能な人びとも帰国を望んでいる」と論じた。

 その上で同誌は、「カダフィ大佐自身は予見しなかったことだろうが、カダフィ大佐の統治に対するトラウマが、国民意識を以前よりも高めたかもしれない」と推測している。(c)AFP/Christophe Schmidt

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