【11月26日 AFP】ロシアの治安機関、連邦保安庁(FSB)の依頼で制作された子ども向けの反テロ教育アニメーション・シリーズが、インターネット上で思わぬ大ヒットとなっている。

 アニメは5つのエピソードからなる。その1つは「男の子が道路に放置されたかばんを見つけました」とのナレーションで始まり、「その男の子は、かばんを拾って家に持ち帰りました。するとかばんから聞こえていたカチカチという音が、突然、止まりました」と続く。

「その後、男の子に身に起きたことは、お見せすることはできません」と、男の子の死を示唆するナレーションの後、アニメは路上に放置された箱を見つけた別の少年が警察に通報する映像を映す。こちらのエピソードは少年が表彰されて終わる。

 その他のアニメでは、「敵」の隠れ家である可能性がある鍵のかかっていない地下室を見つけたら通報するよう奨励。また、いたずら電話で爆弾を製造するなどと口にすれば「スクーターをもらう代わりに、3年の禁固刑に処せられる」と警告している。

 各エピソードの最後には、警察の指示に従うよう促す厳しい声のナレーションとともに、重厚な連邦保安庁ビルの映像と地元治安当局の通報用電話番号が映し出される。

■「ソ連的」と批判、風刺パロディも登場

 実はこのアニメは5年前、連邦保安庁とシベリア(Siberia)連邦管区クラスノヤルスク(Krasnoyarsk)の助成を得て制作されたもの。前週、南部ボルゴグラード(Volgograd)州のテレビ局V1が放映したのがきっかけで、インターネットを通じてロシア中に広がった。

 アニメを見て、隣人に怪しげな点がみられれば通報するよう全国民に奨励したソ連時代のプロパガンダを連想する人もいる。

 アニメを風刺したパロディ版もすでに出回っており、その1つは次のようなものだ。「おばあさんはポロニウム(放射性物質)が入ったつぼをかき混ぜながら、トリアンファーリヌイの孫娘がやってくるのを待っていました。しかし、FSBに籍を置くおじいさんが先に孫娘を捕らえ、固い木の床にくぎで打ち付けてしまいました」

「トリアンファーリヌイ」とは、モスクワの凱旋(トリアンファーリヌイ)広場(Triumfalnaya Square)で野党が開いた抗議集会を暗示し、「ポロニウム」は英ロンドンで連邦保安局の元職員、アレクサンドル・リトビネンコ(Alexander Litvinenko)氏が暗殺された際に使用された放射性物質の名前を指す。

■制作元はメディアに不満

 アニメを制作したスタジオ・グラード(Studio Gorod)のパベル・スタブロフ(Pavel Stabrov)氏はAFPの取材に対し、制作の条件は「(テロ防止の)ごく基本的な規則」を子ども向けに分かりやすく説明するということだったため、詩のように韻をふんだナレーションによるシンプルなスタイルのアニメーションを制作したと説明した。

 その一方で、スタブロフ氏は各メディアが「連邦保安庁が反テロ教育アニメを制作した」と報じていることに不満を感じており、「正当な制作元」をメディアが尊重しないなら訴訟も辞さない構えだ。(c)AFP

【参考】FSBの「反テロ教育アニメ」が見られるページ(ロシア語)