【10月9日 AFP】大量に舞い込むメールや、ひっきりなしに鳴る携帯電話のコールから逃れて静かなバケーションを過ごしたい、という向きに北朝鮮はいかがだろう。携帯電話は空港で没収、インターネットは不通なので雑音はまったくない。

■限定される携帯所持者、外につながらないネット

 世界で最も厳格な統制社会である北朝鮮では、国外からの情報を遮断する一環として、認可のない携帯電話の所持は違法だ。

 平壌の空港に降り立った外国人観光客は、携帯電話が圏外になっていることに気付くだろう。しかし、礼儀正しい税関職員がてきぱきと電話を没収してしまうので、圏外でもさして問題でない(出国する時に電話は返却される)。モバイルPCも無線機能を搭載していなければ、通関できる。

 外国人は空港で通信手段を絶たれてしまうが、北朝鮮市民は隣国・中国製の携帯電話を使っている。北朝鮮では08年12月、エジプトの通信大手オラスコム・テレコム(Orascom Telecom)との合弁事業で、3Gサービスを開始した。しかし、在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)の中央機関紙、朝鮮新報(Chosun Sinbo)の4月の報道によると、人口2400万人の北朝鮮で携帯電話の契約者はわずか12万人。政府は年内に契約者60万人を目標としている。

 政府関連職員や旅行ガイドはその少ない利用者の1部だが、平壌の公園で携帯電話をじっと見つめる少女2人を見かけた。アジアの他の街ならば当たり前の光景だが、数十年は立ち遅れた感のある平壌では非常に珍しい。

 ガイドいわく、北朝鮮にもインターネットの「国内」サービスはあるのだという。大学や図書館へ行けば、外の世界とつながる「本当のインターネット」があるのだと思う、ということだった。

 平壌に2軒ある外国人向け高級ホテルのひとつ、羊角島国際ホテル(Yanggakdo International Hotel)のロビーには公衆電話コーナーがあり、国際電話の音声は極めてクリアだった。片隅にはコンピューター・コーナーもあり、ホテルのスタッフは、メールはできるが「インターネットはない」と言った。

■外部との情報は徹底監視で遮断

 世界を席捲するハイテク革命は、この国だけを見過ごして通り過ぎてしまったように見えるが、ひとつだけ最先端の分野がある。「監視」だ。

 羊角島ホテルのエレベーターで、大声を出していた外国人観光客に、別の客が盗聴器があるぞと注意していた。

 米国務省では「ホテルの部屋、電話、ファックスはすべて監視されているだろう」と旅行者に警告している。

 北朝鮮の人びとは子どもの頃からプロパガンダの嵐にさらされ、もっと広い外の世界については知らないままだ。ラジオもテレビも国営に限定されている。平壌の夜のテレビ番組といえば、過去の戦争ものといった具合だ。英BBC、日本のNHK、中国CCTV、ロシアのテレビ局などは、羊角島ホテルでは見ることはできた。しかしガイドの1人は、マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)の名前も聞いたことがないと言う。

 韓国の人権団体の中には、中国国内の携帯電話経由で北朝鮮へ外国のニュースを送るルートをもっているところもあるが、それができるのは国境付近に限られている。人権活動家らによると、北朝鮮当局は違法電波を検知する機器を搭載した車を、中国国境沿いに走らせているという。

 韓国・ソウルの自由北韓放送(Free North Korea Radio)は3月、北朝鮮の「秘密主義の壁」を破るために、3台の衛星携帯電話を北朝鮮国内の「特派員」に提供したと発表している。(c)AFP/Ian Timberlake

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