【9月27日 AFP】北朝鮮を建国した故金日成(キム・イルソン、Kim Il-Sung)国家主席が1994年に82歳で死去してから16年が経過したが、北朝鮮の人々の間で「偉大なる首領様」の威光は、いまだ衰えていないようだ。

 平壌(Pyongyang)で外国人向けツアーに参加したAFP記者は、市内のあちこちで、看板から微笑みかける故金日成主席に出会った。スピーカーからは昼夜を問わず、金主席を讃える歌が流れる。金主席の「偉大な」業績を示す記念碑が、くたびれた市街を見下ろしている。

■「天から来た」金日成氏

 ツアーが最初に立ち寄ったのは、金主席の銅像がそびえ立つ金日成広場だ。ガイドの説明によると、高々と掲げられた金日成主席の右手は、人びとに進むべき道を示しているのだという。ガイドは外国人観光客にも平壌市民と同様に、金主席の銅像に一礼し花を捧げるよう促した。

 次に訪れた金主席の遺体が安置されている錦繍山記念宮殿は、厳粛な雰囲気に包まれていた。館内は北朝鮮全土から訪れた人々で満員だ。みな暗い色の正装で、胸元には金主席のピンバッジをつけている。

 薄暗く肌寒い部屋に入ると、防腐理を施された金主席の遺体が安置され、脇のスピーカーからは「(金主席は)天からいらっしゃった」とのイギリス英語のアナウンスが流れていた。金主席のスーツ姿の体は赤い毛布で覆われているが、髪の毛はわずかに灰色がかった部分があるだけで黒々としている。

 抗日パルチザン闘争のゲリラ戦士だった金主席は、1948年に朝鮮民主主義人民共和国を建国、以来、異議を許さない抑圧政治体制を築き上げてきた。金主席の伝記は同主席について、「あらゆる苦難において、自己を犠牲にされ、勝利への道を切り開かれた」と讃えている。

■衰えない「首領様」人気、正日氏・ジョンウン氏の影薄く

 北朝鮮は28日に、数十年ぶりとなる朝鮮労働党の代表者会を控えており、北朝鮮情勢のアナリストらは、金主席の息子の金正日(キム・ジョンイル、Kim Jong-Il)総書記(68)から、孫のジョンウン(Kim Jong-Un)氏(推定27)に指導者ポストを引き継ぐ布石として、ジョンウン氏が党の要職に就任する可能性があるとみている。

 だが、首都平壌ではジョンウン氏への権力移譲の気配は感じられない。

 市民の関心は依然として、「慈愛に満ちた太陽」である金主席に向けられている。「今でも金主席が、ここにおられると感じます。なぜなら偉大なる首領様は、いつもわたしの心の中におられるからです」。北朝鮮人の女性ガイドは朝鮮戦争の「勝利記念館」で、こう語った。「金主席は、われわれ北朝鮮人民の父なのです」

 北朝鮮の人々は幼少期から、「永遠の国家主席」金日成氏の偉大な業績を讃えるプロパガンダ漬けにされてきた。現在の国家指導者である金正日総書記は「偉大なる指導者様」と称されるが、肩書きは朝鮮労働党の総書記だ。北朝鮮の人々は、国家の長は現在でも故人の金日成氏と見なしているようだ。

 ツアーガイドらはジョンウン氏の話題には触れたくない様子だったが、あるガイドはジョンウン氏が間もなく公の場に登場することになるだろうと語った。大学では、すでにジョンウン氏の「非常に知的な」人となりについて教育が始まっているという。

 ジョンウン氏は、成人後の写真すら公開されていない。そのため、平壌市内の住宅には今も、金日成主席と金正日総書記の写真が並べて掲げられてある。また、市内の通りや家々のベランダには、ピンク色の金日成花(Kimilsungia)と赤い金正日花(Kimjongilia)が飾られていた。(c)AFP/Ian Timberlake

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