【9月24日 AFP】経済成長に伴い自己主張を強める中国が領有権問題で日米との対立を深める中、やはり中国との間で領有権争いを抱えるアジアの近隣諸国は、対抗して自らの領土的野心を防衛する構えを見せつつ、大国たちの衝突の狭間でつぶされはしないかと懸念している。

 中国はヒマラヤ山脈東部でインドと国境紛争を抱えているほか、南沙(スプラトリー)諸島(Spratly Islands)をめぐってはベトナム、フィリピン、マレーシア、台湾、ブルネイと領有権を争っている。

 こうした事情から、尖閣諸島(Senkaku Islands、中国名:釣魚島)沖で2週間前、日本の海上保安庁巡視船と中国漁船が衝突した事件で、逮捕した中国人船長の釈放を拒んだ日本に対し中国政府が「新たな対抗措置を取る」と威嚇したとき、アジア域内一帯には警戒感が広がった。

■米中けん制の舞台になるASEAN会議

 中国は、バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領が24日に東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳と会議するのに先立ち、米国が南シナ海の安全保障問題に干渉しないようけん制した。

 さまざまな領土問題を「国際問題化」することに、中国は強烈に反発する。そして、自国がより大きな影響力を行使できる2国間ベースに持ち込み、水面下で解決したがる傾向がある。

 したがって、7月のASEAN地域フォーラム(ARF)でヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)米国務長官が南シナ海の安全保障問題について、多国間協議を通して解決すべきだと主張した際、中国が強く批判したことも驚くに値しない。

 石油、天然ガスなどの埋蔵資源に加え、漁業資源も豊かな南シナ海で、中国は南沙諸島と西沙(パラセル)諸島(Paracel Islands)の領有権を主張している。周辺の海路は東アジアと中東・欧州を結ぶ戦略的な位置にある。

 米国は自国の自由通行権が阻まれる脅威に懸念を示しており、クリントン長官は、領有権問題を解決することが「域内の安定と米国の国益の要」だと強調した。6月にはロバート・ゲーツ(Robert Gates)国防長官も、南シナ海の自由な利用を呼びかけるとともに、ベトナムが領有権を主張する海域における米国の資源権益がおびやかされているとほのめかした。

 2009年には周辺海域で、米軍の調査船と中国側がにらみ合う事態も起きた。

■近隣諸国、中国に感じる脅威は一致

 インドもまた、中国のプレゼンス増大に警戒心を隠さない。特にバングラデシュ、スリランカ、パキスタンに建設中の港湾に対する中国の巨額投資は、外洋航行能力を拡大しようとの同国の野心の一環とみなしている。

 周辺諸国、特に近年も中国との間で短期間ながら死者を出す軍事衝突を起こしたベトナムなどは、アジア域内の拮抗勢力として振舞おうとする米国の新たな姿勢を歓迎している。
 
 中国はASEAN加盟10か国に対し、アジアの覇権への野心はないと保証しており、これまでに軍事侵略の兆候も見せてはいない。しかし放置すれば、周辺国を「いじめ」始めるのではないかという懸念は払拭されない。

 一方で、領有権問題とは多少距離のあるタイ、カンボジア、シンガポールなどはアジアでの影響力復活を試みようとする米国の姿勢に冷めていると、シンガポールのS・ラジャラトナム国際関係学院(S. Rajaratnam School of International Studies)のリ・ミンジャン(Li Mingjiang)氏は言う。こうした国は、米中が衝突すればどちらか一方につくことを迫られるため、そうした事態は極力避けたい構えだ。

■中国は挑発されている?

 米国、そして今までより強硬的なアプローチで中国と綱引きをする日本に、中国は挑発されているとみる専門家もいる。

 ロドルフォ・セベリノ(Rodolfo Severino)前ASEAN事務局長は、中国が勢力を強めようとも域内各国は領有権の主張をやめないだろうとの見方を示した。「こうした状況下における東南アジアの利益は、平和と安定が揺らぐことなく、航行の自由が維持されることだ。しかし同時に各国は、日中の『けんか』も米中の『けんか』も望んではいない。中国は挑発を受けて暴力を行使すべきではない」

 域内の新しい力関係によって「素晴らしい機会も提供されれば、大きなリスクも存在する」と述べるのは、米国の戦略国際研究センター(Centre for Strategic and International StudiesCSIS)、アーネスト・バウアー(Ernest Bower)氏だ。「問題は、外交関係とアジア地域主義で成功できるかどうかだ。こうした努力の失敗は、アジアの経済成長、平和、未来の繁栄に対する許容できないリスクを意味しかねない」と指摘している。(c)AFP/Sarah Stewart

【関連記事】スリランカに中国支援の大規模港、警戒強めるインド