【9月3日 AFP】ドイツ連邦銀行(中央銀行、Bundesbank)は2日、「ユダヤ人に特定の遺伝子がある」などと人種差別的な発言をしたティロ・ザラツィン(Thilo Sarrazin)理事の解任をクリスチャン・ウルフ(Christian Wulff)大統領に申請することを理事会で決めた。ドイツ連銀理事は大統領に任免権があり、連銀自ら解任はできないため。

■「ユダヤ人遺伝子」「トルコ人がドイツを征服」

 ザラツィン氏は最近出版した自著で、イスラム教徒の移民のドイツへの流入と、国内のトルコ系住民の高い出生率を指摘するとともに、そのために欧州最大の経済大国であるドイツが貧困化すると主張した。

 また、ある新聞の取材に対し、「すべてのユダヤ人はある特定の遺伝子」を持っており、その特性はスペイン北部のバスク(Basques)人と共通するとの自説を展開、人種差別的、反ユダヤ的だとの批判を受けた。

 さらに前年10月には、「コソボ人がコソボを制服したのとまさに同じように、トルコ系住民は高い出生率を武器にドイツを征服しようとしている」「アラブ人とトルコ人はこの街(ベルリン、Berlin)で、果物と野菜を売る以外の生産的な活動をしていない」などと発言していた。

 一連の発言はドイツ全土で強い反発を招き、アンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相は「断じて受け入れられない」、欧州中央銀行(European Central Bank)のジャンクロード・トリシェ(Jean-Claude Trichet)総裁も「がく然とした」と批判した。

■ザラツィン氏を支持するドイツ国民、その理由は…

 しかし、ドイツ国内ではザラツィン氏に理解を示す声も多い。ザラツィン氏の発言は、これまでタブーとされてきたがオープンに議論したほうがよい問題に踏み込んだものだ、と受け止められているためだ。

 ニューステレビ局N-24が視聴者を対象に行った調査では、51%がザラツィン氏の解任に反対している。ザラツィン氏が党員として所属する中道左派の野党・社会民主党( Social Democratic PartySPD)も1日、ザラツィン氏を支持するメッセージが多数、党あてに寄せられていると語った。

■ドイツで問題化するトルコ系移民

 ドイツ国内のトルコ系移民は約300万人。彼らがドイツ社会にうまく溶け込めていない事実は、独政府も認めている。公式統計によると、ドイツ国籍を持たない若者の約5人に1人が学校を中退しているが、トルコ系2世、3世の多くはドイツ国籍ではない。高校を卒業するのは10人に1人未満で、彼らの失業リスクは国民平均の2倍近い。

 こうした現状に、緑の党のレナート・キュナスト(Renate Kuenast)党首も2日、ザラツィン氏の発言からは距離を置きつつも、移民問題について「(ザラツィン氏と同じく)懸念している」との認識を示している。(c)AFP